孤独な二人は

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 曖昧な認識ではあるが、雑賀家が経営する雑賀グループは、レジャー・観光施設サービスや、建設・製造販売事業、様々な娯楽や施設経営に手を出し多角化経営を目標に掲げ、投資活動にも従事していることで今後の事業拡大も期待されている、今や注目の大企業だ。  一方、沙悟浄家が経営する日ノ本鉄道株式会社は旅客運送事業を展開しており、その路線は本州全土に渡る。さらに観光サービスや不動産事業にも従事しており、その関係で雑賀グループとの業務提携を視野に入れていた。  雑賀グループと業務提携を行い、安定した資金調達・安定した経営を行うことで、双方の事業戦略、勢力や権力の向上を目指すことを約束していたのだ。  それからというもの、雑賀の社長令嬢の話をよくするようになったから、もしやとは思ったのだがまさかこんな事になろうとは。  ちなみに雑賀社長令嬢の名前はよく覚えてない。おそらく相手も政宗を知らないだろうが。  少し冷静になったところで政宗は妹の頭をそっと撫で、軽く謝罪をする。妹が泣き止んだところで結婚の話を続けた。これからの政宗の人生についてや後継について。しかし政宗にはそれらを聴く気力もなかった。  一つ理解出来たことは、雑賀との関係をより深めることでお互いの企業関係がより確実的なものになるということだ。その「関係を深めること」というものが、今回の政略結婚に当たるわけだ。互いに貢献し合い、父親の企業も儲かれば沙悟浄家も更に安泰。  あぁ。まさににうちの理想だ。沙悟浄家と雑賀家の双方の理想図であろう。だが、あくまで沙悟浄家と雑賀家の理想であって、政宗の理想ではない。  むしろ願ってもない最悪な状況であった。  最終回答を問われたが、政宗は口を開かずに徐ろに首を横に振った。政宗はそれが最善の選択だと決めつけた。互いの合意がない限り、契約婚は実現しないはずだ。しかし、おそらく親父なら強制的に、また政宗が結婚に賛成するように示唆するだろう。  何者かも容姿も、どんな性格の人かも知らぬ相手と結婚だなんて、政宗からしても、勿論相手の方からしてもさぞ迷惑な話だろう。例えそれが義務だとしても、反論してしまうのは致し方ないことである。  愛する人ができても自由に恋愛できず、将来の夢があっても自由に進路の選択が出来ない。  その人生の中に「政宗」の意思がない限り、その人生は「政宗」のものではない。それは沙悟浄家のものだ。 そんなことは御免だ。だから俺は言ってやった。 「お父様。もうあなたの言いなりにはなりません。俺はお暇を頂戴します」   長い間、お世話になりました。そう最後に二の句を続け、親父に暇を出しその場を立ち退いた。親父が目を丸くしている様子を見ると思わず笑いたくなりそうだ。  トテトテとついて来た妹を手で制し、二度と親父の方を振り向かずに戸を閉めた。その行儀の悪さは普段の親父なら怒鳴るレベルだ。  だが普段柔順な政宗がこんなにも反抗的になったのは初めてだろうから、驚きで言葉も出ないのだろう。  危ない橋でも渡った気分だ。いや、これからも渡るだろう。  有言実行。  その夜、政宗は家出を決意した。
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