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「あの、もしよろしければ、匿ってもらえませんの?」
だめだ、箱入り過ぎてこいつ人間界の空気すら吸ったことなさそう。
大体見知らぬ男性に声をかけるだけでは飽き足らず、居場所まで要求するとは。これ、詐欺とか美人局じゃないよね、と内心不安になりながらも、その線は薄いとも感じていた。
何故ならこれがその手口だとしたらあまりに粗雑すぎるからで、出会い頭の男性をターゲットにするのはある意味リスクも高いからだ。
それにそんな理由だけでなく、服装もボロボロで食べているものも栄養もカロリーも無視したジャンクフード。自分の身のことを考えていなさそうな彼女が見せるその涙を信じてあげたくなった、という人間的な理由も持っていた。
ちなみに美人局は大体の場合、出会い系サイトとかで気分うふふになってホテルに誘われて、怖い人出てくるからみんなも注意しよう。
しかし政宗の答えは。
「そ、それはだめだ」
と、拒否をする結果となった。
「な、何故だめですの?」
と、お嬢様は質問をする。その瞳は希望を失ったかのように衰退していくようで、静かに政宗を見つめていた。しかし政宗にははっきりとした、説得力のある答えを与えることができる自信があった。
「日本にはな、未成年誘拐罪というものがあるんだ。だから、家出した高校生とかを家に誘うと犯罪になるんだよ。じゃ、早く家に帰れよ」
その判断は政宗を大人たらしめる結果となった。最近話題になっている「家出少女」を家に招き入れ、誘拐罪で逮捕されるケースが多い。それは例え、本人の同意があっても成立するものであるから、「家出少女」誘っちゃダメ。ゼッタイ。
しかし過ぎ去ろうとした政宗は、袖をぎゅっと掴まれた。おいおいちゃんと説明したのに何か不満でもあるご様子で。俺はまだお巡りさんのお世話になりたくないんだが。
振り返り少女の顔を確認すると、少女は顔を赤らめ、頬を膨らませ、眉間にしわを寄せ、何やら怒っている様子。すると少女は思いの丈を政宗に言い放った。
「わたくしはもう二十歳ですわ!子供扱いしないでください!」
「ええ、それはごめん・・・・・・」
その姿から勝手に判断していたが、まさかの二十歳とは驚きだった。最近の日本人は年齢の区別ができないくらい容姿が多様化してる気がする。「ロリババア」とか「名探偵なんとか」とか「その名はシャ〇ム!」とか。
かく言う俺もたまに背の高い高校生に間違われることがあるが、就職を間近に控える二十二歳だ。顔が若く見えるのかな?
しかしそこでまた、判断を迫られる事となる。未成年誘拐罪には当たらない、となるとあとはモラルの問題が迫る。普通に考えて、初対面の異性を家に上げるのは普通ではない気がする。初対面の異性に匿うように頼むのも普通ではないと思うが。
後は少女の両親が通報してしまえば、場合によっては略奪・誘拐罪が適応されてしまう気がする。初対面である以上、関係性の証明ができないから、結局は見捨てるのが政宗にとっては最善の策なのかもしれない。
難しい、なんとも難しい。少女を救うどの選択肢を選んでも大学生から容疑者にジョブチェンジしそうで難しい。
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