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空籠
空の鳥籠の中を一陣の風が吹き抜けた。生命の香りが全く無く、ただひたすらに金属的な無機物の香りだけが室内に溜まっていく。その香りは懐かしい思い出を思い起こさせるのでは無く、胸の中に寂寥を湧き上がらせるものであった。
しかしながら、その感情は昨日よりもーもっと言えばこの籠の中に冷たい死体を発見した時よりも確実に弱まっている。寂しさが薄れた筈の胸に薄い痛みが広がったのを感じて、酷薄な笑みが零れ落ちた。おかしな話だ。悲しいという感情が薄らいでいるというのに、その事が寂しいなんて。なんともおかしな話だった。
どれ程の悲しみを詰め込まれたとしても、残酷なほどに優しい時に包まれて過去へと葬られてしまう。幾度と無く繰り返していく中で悲しみが薄らぐ事を寂しいと思っていた事すら忘れていくのだろう。
冷たい金属の籠に降り落ちた陽光の煌めきを、瞳に閉じ込めるように瞼を閉じる。今はまだ感じられる寂寥を慈しみながら、思い出の残る鳥籠がカランと鳴る音をいつまでも聞いていた。
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