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しとしとと雨が降る日だった。こううっとうしい雨が降っていると、どうしても仕事に行きたくなくなるのだが、そうもいっていられなかった。司は、左団扇で生活できる富裕層ではない。溜息をついて仕事の準備をしていると、机の上の電話が鳴った。
「……?」
司の携帯に電話をかけてくるのは、2人ぐらいしかいない。一人は上司、もう一人は…。
「え……」
ディスプレイには、全く覚えのない番号が表示されていた。どこかのセールスの電話か、と内心で勘繰りながら出て見た。
「もしもし?」
「あ、司様ですか?私です、使用人の橋田美香です。覚えていらっしゃいますか」
「…橋田さん?鷹司家の?夏姫(なつき)の?」
「はい。覚えていらっしゃいますか」
「ああ…夏姫がどうかしたのか?」
「はい…」
電話の向こうで夏姫付きの使用人橋田は、明らかに唾を飲んでから告げた。
「 」
「え…」
「お時間、頂けますか」
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