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夏姫の財布の中に入っていたカードキーでトランクルームの中には簡単に入れた。
「一流のセキュリティーを誇るトランクルームでも、カードキーがあれば誰も簡単に入れるな」
「そうですね」
橋本は言いながら、目線でエレベーター上部の防犯カメラを教えた。
「ああ…」
エレベーターが目的の階、7階に止まると二人は降りて、司は手に持っていたカードキーの番号を見た。
「…7-12L…」
2人はエレベーター横の案内板を見て、夏姫が借りていたトランクに行った。
トランクは広かった。それこそ、人一人が余裕で寝られるぐらい。事実夏姫は、トランクの中に簡易なものではあるが、机と椅子、電気スタンドを持ち込んでいた。
「ここで作業することもあったんだな」
「はい…お屋敷だと、どうしても、その…」
「ああ、もういい」
酷く居心地悪そうにしていた橋本を遮り、トランクの中に積まれていた段ボールを台車に載せ、机と椅子を片付けると…。
「……」
必然的に、机前の壁が目に入った。そこには、笑っている司と夏姫の子供の頃の写真が貼られていた。
「これ、お嬢様が一番大好きだと言っていた写真です」
「だろうな…この写真が撮られた頃、夏姫にはまだ実母がいたんだよ。実母が、夏姫をあの屋敷に置き去りにして雲隠れする直前に撮られた写真だ」
司は写真を剥がし、自身の財布に仕舞った。
司は幼い頃に事故で両親と弟を一度に無くし、この地に住む伯父に引き取られて越してきた。自身の身に降りかかった不幸と元来のコミュニケーション能力の低さからなかなか友達が出来ずに孤独な毎日を送っていたが、それを砕いてくれたのが、夏姫だった。夏姫は、旧華族でもある大富豪の父と、愛人であった母の間に生まれた婚外子だったが、父の正妻である菫が二人の存在に気付くまでは幸せに暮らしていた。明るかった。可愛かった。菫による、命の危機にさえ及ぶ苛烈な嫌がらせに耐えられなくなった夏姫の母は夏姫を鷹司家の前に置き去りにして失踪し、一人残された夏姫は、世間体だけで引き取られたが、広大な屋敷敷地内に作られた小屋での独居を強いられた。
「…橋本さんは、鷹司家に引き取られる前の夏姫を知らないんだよな」
「はい、存じません」
「母親と一緒に住んでいた頃の夏姫はさ、明るかったんだよ。可愛かったんだよ。クラスどころか学年中の男子が、みんな夏姫にメロメロになっていた」
「……」
「でもさ、鷹司家に引き取られてから夏姫は一気に変わったよ。全然話さない笑わない、人形みたいになっちまった。みんな夏姫と遊ばなくなった」
「…伺っております」
「だからおれ、早く自活して、夏姫と一緒に住みたかったな。もう一回、夏姫に笑って欲しかったな」
「……」
淡々と話す司の目からは涙が溢れ、司は、その涙を拭おうともしなかった。
「でも夏姫お嬢様は、司様がいらっしゃるとすごく楽しそうにしていらっしゃいましたよ」
「あんなもん、単なるカラ元気だよ。あのクズどもと同じ敷地内にいて、楽しめるわけないだろ…一発、拳で殴ってやればよかった」
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