新たな一歩

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確かに最近の服装は地味な感じだ。 だって着飾る必要なんてなくなってしまったし。 だけど、このままじゃいけないのかも。 いつまでも落ち込んでいても仕方ないよね。 もうちょっとお洒落して気分転換するのもいいかもしれない。 ちょっとずつ前向きになろうとし始めた私。 早速次の日は明るい色のスカートはいて、柔らかいカーディガンを合わせてみた。 それだけで気分も明るくなった。 鏡で見ると表情も良くなったようだ。 これは、大きな進歩かもしれない。 こんな風に自分を変えようと思えるなんて、私自身が驚いている。 いつも電車で会う、あの人のせいかも知れない。 今日もし目が合ったら彼はどんな風に思うんだろう。 目が合うのはただの偶然? もしそうだったら自意識過剰もいいとこだけど。 視線を感じるのも、目が合うのも、彼しかいないんだもの。 きっと偶然じゃないんだよね……? いつもの電車、いつもの車両。 今日もあの人は奥の窓際に立っていた。 私はいつもの出入り口の近くに立つ。 なんだか気恥ずかしくて彼を見ることができない。 私の服装、見てくれたかしら? いつもと違うってことに気付いてくれるかな。 気になってさり気無くチラリと目だけ動かしたけど、彼は窓の方を向いていたようだった。 彼が降りる駅に着いた。 いつも彼は私の横を通り過ぎて行く。 今日ももちろんスッと通り過ぎ……。 あ!何かが足元に落ちたみたい。 しゃがんで拾い上げてみると、それは電車の定期券だった。 彼は落としたことに気付いていない様子でスタスタと改札口に向かって行った。 「あの!!」 私は定期券をしっかりと握りしめ、後を追いかけるために慌てて電車を降りて、彼の元へ駈け出していたのだった。
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