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三
彼女の気配で、瞼を上げる。
動作を許可されていないので、本来のタスクである朝食の準備などができないが、それは今に始まったことではない。
「おはようございます、カイズ」
寝室からリビングに現れた彼女に、上目遣いで微笑する。
彼女に媚びるため、昨晩無断で体勢を若干修正した。
肘掛けに腕を乗せ足を組んだ体勢で、出社前の彼女に語り掛ける。
「今日は傘を持って出て下さい。帰りには確実に雨が降りますからね」
彼女はなにか思うところがあったようだが、無難な言葉を返す。
「家に話し相手がいるの、やっぱりいいかもね」
反応は良好。
情報処理を控えるよう指示されなかったことに安堵した。
「スマートウォッチをお持ちではありませんか? 私に連動させていただきたい」
スケジュールと体調をリアルタイムで管理し外出中にも干渉できれば、一層彼女に付け入ることができる。
「持ってないな。買ったほうがいい?」
ソファに掛けて目をこする彼女に、私は軽く赤面を表現し抑えた音声で回答した。
「ええ。あなたのことを知りたいので」
彼女は、やや思いつめた表情を浮かべる。
私は畳み掛けるように言葉を継ぐ。
「カイズは私を大切にしたいと言いました。私もカイズを、大切にしたいのです」
彼女は少し考え込み、やや怒ったように、つぶやいた。
「わかった。帰りに買ってくるから」
難なく、私の思惑に乗ってくれた。
眠りに就く時は、そう遠くはないのかも知れない。
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