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 私の新しい主人は、カイズ・クレイグというらしい。  二十八歳の女性で銀行員、1LDKのマンションに一人暮らし。  セミロングの金髪に青い瞳、小柄だが気の強そうな顔立ち。  先の主人が病気で亡くなり、遺品分配の形で親族である彼女の元へ、私は今日送られてきた。  到着早々、カイズは私に命令した。 「あなたの椅子をリビングに置くから。あなたはそこから動かないで」  私の付属品として共に送られてきた、背もたれの高いワインレッドの革張りの椅子。  彼女は玄関で椅子から緩衝材を取り除くと、金色の細工が(ほどこ)された肘掛けを持ち、一人で運ぼうとする。 「私が」 「あなたはなにもしないで。もったいない」  彼女が惜しむのは、私のバッテリー。  八年ほど前に販売された私の型のヒューマノイドは、電源となる特殊な物質の使用が禁止されたため、三年前に充電が不可能となった。  代替の電源はなく、バッテリーが切れればただの人形となる。  我々を所持する人間は新たなヒューマノイドと交換するか、バッテリーの消耗を極限まで抑え希少価値のあるヒューマノイドとして悦に入り、そばに置き続ける。  先の主人は後者だった。  カイズも、後者らしい。
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