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二
私は三年前からほぼ皮椅子に座って過ごしてきた。
情報処理のみであれば大した電力は消費せず、容量の膨大なバッテリーはまだ余力を残している。
だが、私は退屈していた。
「早く眠りに就きたいので、小間使いとしてさっさと消耗して頂きたい」
淡々と述べると、苦労してリビングに椅子を設置し終えた彼女は強気な面立ちを悲しげに変えた。
「あたしは職場であなたのようなヒューマノイドの電源が落ちるのを見ているの。あなたを大切にしたいから言うことを聞いて」
面倒な人間に引き取られてしまった。
大人しく椅子に座ると、私は動作機能を停止する。
言うことを聞いていては、あと二年はここに縛られなければならない。
放置されるのかと思いきや、彼女は私に語り掛けてきた。
「小間使いのわりに、たいそうなスーツ着てるのね。普通黒じゃない?」
淡く青みがかったスリーピースの白いスーツ。
椅子と共に、先の主人が私に与えてくれたもの。
「カイズはウエディングドレスを着たヒューマノイドを見たら、どう思いますか」
「ラブドールにでも、してるのかなって」
「そういうことです」
彼女は気分を害して眉をしかめた。
「やだ、聞かなきゃよかった」
私のほうは、都合のよいことを思い出させてもらった。
小間使いよりも、ラブドールをしていたほうが消費電力が多い。
「そのようなことをしていたのは充電が可能だった三年前までです、もう時効でしょう。いつでも申し付けて下さい」
「時効とか関係ない。あたし彼氏いるし、間に合ってるから」
「私はヒューマノイドです、浮気には該当しませんよ」
「あんた歳下でしょ、全然趣味じゃない」
二十歳男性として製造されたこの身体は、残念ながら彼女のお気に召さなかったようだ。
しかし情報処理が許可されるのなら、会話だけで彼女を陥落させることができるだろう。
近いうちにそれを成すことは、たやすく思えた。
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