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ひとりぼっちのメデューサ
むかしむかし、あるところにメデューサと言う女の子がいました。
メデューサはいつもひとりぼっちで、どうくつの中で人目を避けるように暮らしています。
それは彼女の姿を見たり、彼女に姿を見られたりすると、みんな石になってしまうからです。
陽気なお化けも、
優しい透明人間も、
勇敢なミイラ男も、
みんなみんな石になってしまいました。
今では誰もメデューサのいるどうくつ近辺には近寄らないし、メデューサもどうくつから出る事は滅多にしなくなりました。
そんなある日の夜。
外は大雨。
空がピカッと光り、少し遅れてものすごい音が聞こえてきます。
びゅうびゅうと強い風も吹いています。
怖がりなメデューサはどうくつの奥で、ブルブルと震えています。
と。
ズンッ!
「きゃっ」
突然どうくつの中に一際大きな音がひびきます。
その音に驚いたメデューサは小さな悲鳴をあげます。
ズンッ!
ズンッ!
その音はどんどん大きく近付いてくる様です。
メデューサは怖くて動けません。
「ダレカイルノカ?」
不意にとても低い声が聞こえてきました。
どうやらどうくつに誰かが入って来たようです。
慌ててメデューサは言います。
「だ、だめ! こっちに来ないでっ。わたしはメデューサ、みんな石に変えてしまうのっ」
「ソウナノ?」
ズンッ!
ズンッ!
足音はどんどん近づいてきます。
「だめだったら! こないでっ!!」
メデューサは必死に止めようとします。
ズンッ!
ズンッ!
ズンッ!
声の主はメデューサの制止を無視して、どんどん、どんどん近づいてきます。
やがてどうくつの壁に大きな人影が映ります。
もうすぐそばまで来てしまった様です。
「だめーっ!!」
メデューサは思わず目を閉じ、頭を抱えるように伏せました。
ズンッ!
「コンバンハ、チイサナオジョウサン」
びっくりしたメデューサは顔をあげます。
そこに立っていたのは、大きな大きなゴーレムでした。
その身体は、つやつや光るきれいな石で出来ていました。
「アマヤドリシテモ……イイ?」
◆
その日からメデューサとゴーレムの不思議な共同生活が始まりました。
ゴーレムは、東にある錬金術が発達した国で、戦争の道具としてつくられたのだそうです。
でも心優しいゴーレムは人を傷つけるのが嫌で、戦場から逃げ出してきたのでした。
「優しいんだね」
メデューサがそう言うと、ゴーレムは石で出来た顔を頑張って動かすと、メデューサへと歪んだ笑顔を見せました。
「うふふ。変な顔」
そう言って楽しそうに笑うメデューサを見て、ゴーレムはすごく幸せな気持ちになることが出来ました。
人を悲しませる為に造られたゴーレムは、今まで笑った顔を見た事が無かったのです。
怒った顔。
悲しむ顔。
怯える顔。
みんなゴーレムを見ると、さっとどこかへすがたを隠してしまいます。
そんな自分が、人を楽しい気分にさせられる事が嬉しい。
何よりメデューサが笑っているのがとても幸せだったのです。
◆
そんなある日、ふたりはささいな事でケンカをしてしまいます。
「あなたなんて嫌い」
そう言って、メデューサはゴーレムに背中を向けました。
もちろん本心ではありません。
ほんの少しだけ、ゴーレムを困らせようと思ったのです。
「ア、ア……」
メデューサの思った通り、後ろではゴーレムがあたあたしている様です。
だけどその時メデューサは、はっとしました。
わたし、今「あなたなんて嫌い」って言った……。
それは初めての事でした。
今までひとりぼっちだったメデューサが、初めて使った「あなたなんて嫌い」という言葉。
それは。
相手がいるからこそ、生まれる言葉。
ひとりぼっちじゃ決して使えない言葉。
そしてゴーレムの事を「好き」だからこそ、「嫌い」と言ってしまった。
その事に気付いたメデューサの目から、ぽろぽろと大きな涙がつぎつぎとこぼれます。
メデューサはすぐに振り返りました。
そして、石で出来た顔を一生懸命に困らせているゴーレムに飛び付きました。
◆
ひとりぼっちのメデューサは、もうひとりぼっちではありません。
かみなりや風の音におびえることも無いし、となりにはにこにこと優しく笑うゴーレムがいます。
これからもメデューサとゴーレムは喧嘩をしたり、時には「嫌い」と言ってしまう事があるかも知れません。
でもそれよりも、もっとたくさんの「好き」と言う気持ちをゴーレムに言えるのです。
どうかこれからも。
ふたりぼっちのメデューサたちに、幸せがおとずれますように。
おしまい。
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