掌編 『拝み屋さんと鑑定士』

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「い、いえ、その……なんだかとても、神秘的な美しい方でしたね」  まるで異世界の住人が、次元を超えてやってきたようだ。 「彼はよく来られるんですか?」  私がそう尋ねると、ホームズさんは素っ気なく顔を背ける。 「そうですね、憑きものが持ち込まれることは、滅多にありませんから、本当に時々です」 「憑きもの……」  それは、『怪しいもの』という言い方よりもさらに禍々しさを感じて、私の顔は強張った。 「ですが、今度は葵さんのいない時に来てもらうことにします」  最後は独り言のように洩らすホームズさんに、 「えっ、ど、どうしてですか?」  私が戸惑い声を上ずらせると、ホームズさんは拍子抜けしたような表情で、やれやれ、と肩をすくめた。 「いえ、なんでもありません。それより、そろそろ行かなくては」  ホームズさんは、カウンターの上のノートパソコンを閉じてバッグの中に入れる。  時計を確認すると、出社時間が近付いていた。 「あ、はい。行ってらっしゃい、ホームズさん」  微笑んで手を振ると、彼は「あかん」と手で顔を覆う。 「えっ、なにがですか?」 「すみません、新婚さんっぽいなと思ってしまいまして」  と、ホームズさんは、私を見下ろしながら、照れたように嬉しそうに、はにかんだ。 「っ!」 「おおきに、行ってきます、葵」  そっとこめかみにキスをして、ホームズさんはそのまま『蔵』を出て行く。  私の頬が、自分で分かるほどに熱い。  きっと、顔は真っ赤だろう。 「『あかん』は、どっちですか……」  静かな店内に、私の洩れ出た声が響いた、それは平和なひと時。 掌編『拝み屋さんと鑑定士』 ~Fin~
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