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プロローグ
常にコチコチと針を進めている骨董品店『蔵』の柱時計は、長針が真上に辿り着く直前にカチリと音を変える。
次の瞬間、ボーン、と鐘の音を響かせた。
鳴ったのは十回。今は、午前十時だ。
私・真城葵は、今から十分前に店内に入ったばかりで、いつものようにエプロンをして、開店準備に入っていた。
什器にかけている布を丁寧に外し、埃を払い、それからカウンターを拭いていく。
ふと、カウンターの端にある卓上カレンダーが目に留まった。
まだ八月のままだった。
「もう、八月は終わりっと……」
静かにつぶやいて、私はカレンダーを変える。
今日から九月。
私の通う大学はまだ夏休みだが、新学期が始まった学校も多いようで、昨日とはうって変わりアーケードの人通りは少ない。
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