8897人が本棚に入れています
本棚に追加
「その後、洸一さんは、二階から一階に続く階段から転落する。その少し前に浩二さんは、懐中電灯を手に屋敷の庭に戻って来ていた。その懐中電灯で屋敷を照らして、洸一さんらしき人物が一人で歩いているシルエットを見ている。ただし、カーテンが閉められていたので、誰かは分からなかった。そのあとすぐに大きな音がした。それに驚いた浩二さんは、屋敷に駆け付ける。夕花さん、良子さん、土橋さんも、各々いた部屋から飛び出してきた」
清貴が再び確認するように皆を見ると、彼らは黙って頷いた。
「皆さんが駆け付けたところ、洸一さんは階段の下にうつ伏せになって倒れていた。当時の医師の診断書を拝見したところ、洸一さんはこめかみの辺りを打っていたと記載されていましたので、うつ伏せになって倒れていたのは嘘ではないでしょう。記憶喪失については、海馬が刺激を与えられたせいに間違いないだろうけれど、医師も詳しい原因は分かっておらず、ストレスも関係している可能性があるとのことでした。その頃の洸一さんは、自分が命を狙われていると思っていたようですし、ストレスがあっても無理はないかもしれません」
清貴はそこまで話し、さて、と皆を見た。
「ここでひとつ疑問が湧きます。もし、階段から転落した場合、うつ伏せに倒れるでしょうか? 大抵は、踵を滑らせて尻餅をつく。頭を打ったとしても、後頭部を打ち付けることが多いように思えます。そこから前方に倒れるということがあるかもしれませんが、診断書によると洸一さんは後頭部は打っていない。では、人が階段を下りていて、うつ伏せに落ちるというのはどういう状況なのか……」
そう言った清貴に、良子が顔を引きつらせる。
「勢いよく駆け下りていた、とか? トイレが近かったとか」
「その可能性はもちろんありますが、階段から落ちた際に洸一さんは失禁しているわけではなかったので、それほど切羽つまっていたわけではないように思えます。となると誰かから逃げようとしていた、もしくは誰かから背中を力いっぱい突き飛ばされたという可能性も考えられます。もし、そうした場合、この家にいる誰かと考えるのが自然でしょう」
清貴は、高辻家の面々を見回す。
最初のコメントを投稿しよう!