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――土橋が灯籠のロウソクに火を灯したので、庭園はほんのりと明るい。
だが、屋敷は、家中の照明を消すよう清貴がお願いしたため、真っ暗だった。
「これは、あの夜の再現です。二十年前、高辻邸はこのように真っ暗でした。二階の通路の窓も今のようにカーテンが閉められた状態です」
そう話す清貴に、皆は黙って頷く。
「洸一さんが階段から転落する少し前、浩二さんは庭の見回りをしながら屋敷に向かって懐中電灯の光を当てました。浩二さんは、その時に洸一さんのシルエットを見た、と仰ってましたね?」
そう問われ、浩二は無言で頷く。
「これは、先ほど屋敷を出る前に土橋さんにお借りしたものです。浩二さんはこの懐中電灯を使っていたと」
清貴は借りた懐中電灯を手に屋敷を照らした。
なかなか強力なライトであり、建物がよく見える。
清貴はライトでしばし屋敷を照らし続けたが、何の変化もなく、
「家頭さん、何をしようとしているんですか?」
洸一が不思議そうに首を傾げた。
他の皆も同感だったようで、訝しげな表情を浮かべている。
その問いに対して、清貴ではなく円生が口を開いた。
「今、ストーカーの嘘を暴いているとこやねん」
「嘘を?」
ぱちりと目を瞬かせる洸一に、清貴は「はい」と頷いた。
「実は今、利休に二階の通路を往復してもらっているんです。こうして明かりを当てていてもシルエットは見えないでしょう? こちら側の光が、あちら側の影を映したりはしないんですよ」
その言葉に、浩二も皆も大きく目を見開き、今も照らされたままの屋敷に目を向ける。
「ですから、浩二さん。あなたが庭にいて洸一さんが歩く姿を見たというのは嘘なんです。では、どうして嘘をついたのでしょうか? あなたは何を隠しているのですか?」
「お、俺は……」
浩二は体を震わせて口籠っていたが、やがてギュッと拳を握り締めた。
「すみません。あの夜、俺が兄さんを……」
すると、良子が堪えきれないとばかりに、前のめりになる。
「違うわ、浩二兄さんは頼まれただけなんです!」
「良子!」
すかさず、窘めるように浩二が声を上げるも、清貴はすべて分かっているかのように、大きく頷いた。
「そう、浩二さんは、頼まれていたんですね」
その言葉に、小松は「えっ」と目を丸くする。
「一体誰にだ?」
「そうですね。それは、夕花さん、あなたですね」
清貴は、振り返って夕花を見た。
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