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そこまで言って、夕花は「でも」と拳を握り締める。
「あれから二十年の歳月が経ち、祇園で出会ってしまったんです。あの芸妓にそっくりの娘に……」
夕花の言葉に、沈黙が訪れる。
「ほの香さん、ですね?」
静かに問うた清貴に、夕花は「はい」と頷いた。
小松が、えっ? と素っ頓狂な声を上げた。
「ほ、ほの香さん? もも香さんじゃなくて?」
清貴は、はい、と頷いた。
「浩二さんが付き纏っていたのは、舞妓のもも香さんではなく、芸妓のほの香さんだったんです。ほの香さんともも香さんがいつも一緒だったのと、たまたま、もも香さんが舞妓としてデビューして間もない頃だったので、周囲も本人ももも香さんのストーカーだと思い込んでしまったんです」
そう答える清貴に、小松は呆然としながら相槌をうつ。
「え、でも、それじゃあ、もしかして……」
「ほの香さんは、洸一さんの娘……なんですよね?」
その言葉に周囲に緊張が走った。
綾香は苦い表情を浮かべ、洸一は虚を衝かれたように目を見開いた。
ややあって、夕花はそっと頷く。
「……はい。ほの香さんは、彼女と主人の娘でした」
すると綾香が、「かんにんえ」と深く頭を下げた。
「ほの香の母親は、ゆめ香といいました。洸一さんと道ならぬ恋に落ちて二人は夢も家も財産もすべて捨てて生きていこうとしていたんです。もちろん、それに気付いた私は何度も説得しました。よそ様のお人やと強くも言いました。そやけど、あの娘は、反対すればするほど、意固地になってしもて……」
そこまで話して綾香は息をつく。
「そんな時に、洸一さんの事故がありました。夕花さんは知らへんようやけど、ゆめ香はこっそり病院に行っていたんです。洸一さんは、ゆめ香のことをなんも覚えてへんかった。ゆめ香は自分にバチが当たったんやと泣いて泣いて……、ほんで夕花さんに謝りに行って、そのまま大分の実家に帰りました。そのあとは、女の子を産んだて話を聞きました」
皆は黙って、綾香の話を聞いていた。
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