第一章 『最初の依頼』

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「しばらく事務所で経理関係の仕事をしたり、今日伺う予定の高辻氏のことを調べたりしていて、ふと思ったんだ。お化けってのは、丑三つ時に出るものだって」  円生は、ベタやな、とつぶやき、清貴は「まぁ、そう言われていますね」と頷く。 「時間を確認したら午前一時を過ぎていたから、もう一回パトロールをしようと俺は事務所を出たんだ。祇園甲部をぐるぐる回っていたら、芸妓が二人、お茶屋から出たところだった。仕事が終わって置屋に帰るところだったんだ。俺は、見守るつもりで彼女たちの後ろを歩いていたんだ。怪しい奴だと思われないように、ちゃんと距離を取ってな」  二人は、黙って相槌をうつ。 「そうしたら、彼女たちが、きゃあ、と悲鳴を上げたんだ。何事かと思ったら、通りの先にぼんやりとした白い影が……白い着物を着ていて半透明で、こっちを見て笑ってるんだ。芸妓たちはその場にしゃがみこんで、お互いの体を抱き締め合っていた。俺が驚きすぎて動けずにいたら、白い影がこっちに向かって歩いてきたんだよ」 「…………」  円生は、険しい表情で腕を組む。 「それで、小松さんはどうしたんですか?」 「俺は悲鳴を上げてその場に座り込んでいたんだ。気が付いたら、幽霊の姿はなくなっていた。一緒にいた芸妓にまで、『大丈夫どすか?』って心配されて……」  小松は、情けない、と顔を手で覆う。 「けど、もう、あれは会ってはいけないものだったと思う。俺はもしかしたらこのまま祟られるのかもしれない。いや、もう取り憑かれているのかも」  小松は自分の両手に目を落として、真剣に言う。
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