稻葉島

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稻葉島

「スゲー、こんなの見た事ねえ! 新しいロッドの試し釣りには最高過ぎる!! しかも、初ジギングでーー!!」 船の上で、康二が今回の為に新しく買ったジギング用ロッドの先に、50cmは優にある本土では見た事もない赤い魚をぶら下げて、歓喜の叫びを上げていた。 ジギングとは所謂、疑似餌を使うルアーフィッシングの1つだ。メタルジグ という金属製のルアーを使う。 メタルジグを底まで落として、シャクって魚を誘う。ただリールを巻くだけのやり方もある。 康二は今まではブラックバス、シーバスをルアーフィッシングで釣った事があったが、ジギングで青物(色々な意味があるが、今回は背の青い海の大型魚)を狙うのは初めてだった。 慎吾は大学の夏休みを利用して、約1年前に亡くなった祖父の家に遺品整理を兼ねて、バカンスに友人達と来て居た。 今は最近取った船舶免許を使い、祖父の残した小船で仲間を連れて海釣りに出ていた。 連れて来たのは、宇佐見康二、林ツトム、羽村鷹斗、瀬都奈保子の4人だ。 4人は慎吾の高校時代の同級生で、皆今は大学は違うが、同じ写真部の部員だった。 今回は同窓会も兼ねているが、もう1つ大事な事があった。 いや、慎吾個人の事も含めば大事な事は3つかーー。 慎吾の祖父の家は、日本の最南端に在る小さな離島、稻羽島だ。 一周10km足らずで、島民は50名ほどしか居ない。 島に渡る交通が船くらいしか無く、それも公共の交通機関では無い。 個人で船を持ってる漁師などに、頼まねばならない。 今回は、船舶免許を取ったが、行きはまた別の有人島の漁師に頼んだ。 本土から稻羽島に行くには、I島にまず飛行機で行き、そこから船で行かねばならないのだ。I島から2時間も小舟に揺られると稻羽島に着く。 帰りは祖父の船を使い帰る。 I島の港に停泊しておける場所を、年間契約で今回借りた。 これからは、I島から、自分の船で島まで行けるだろう。 なので、祖父には死ぬまでの数年間は会って居なかったし、最後に会ったのも妹の誕生した時に、祖父が東京に観光を兼ねて出て来た時だった。 交通があまりに不便すぎて、島にはもう10年以上来てない。 「でも、此処、大丈夫なの?」 奈保子が此処と言うのは、島の事では無い。 今、浮いてる海の上の事だ。 奈保子が、目を向けた先にあるのはーー 小さな小さな海から突き出た岩礁と、その上に立つ真っ赤な鳥居。 どう見ても何か特別なモノを祀ってある場所だ。 こういう場所は、普通は禁足地などとなっているがーー。 鳥居位の下には、大きく口を開けた海に繋がる洞窟が見える。 一見、イタリアの青の洞窟のような海蝕洞の様だが、波の浸食で作られたというより、島の一部が崩れて穴が空いたような風である。 「ねえ? こういう所って普通、入っちゃいけないんじゃないのかなぁ?」
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