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第 四 章 7
レーススタートの時間になっても雨は衰えず、むしろ強くなる気配だった。もう九月下旬、さすがに肌寒い。
レインウェアを着込んだ悠真はマシンに跨がり腕を組み、集中力を高めていた。久真を見遣ると、舞ちゃんにアンブレラをさしてもらい、同じように集中しているようだった。
HRCミニバイク選手権は全7戦で行われる。レースの順位ごとにポイントが与えられ、最も多くポイントを獲得した選手に年間チャンピオンの栄誉が与えられる。
悠真は、第3戦を終了した時点でトップの岩代さんから9ポイント離されていた。このレースを含めて残り4戦。ポイント差を縮めておきたいところだ。
雨のレース。悠真は得意にも苦手にもしていない。久真は好きじゃないと言う。
そして岩代さんはポールポジションを獲得していた。彼女の才能を持ってすれば、コンディションなど関係ないのかもしれない。
ウォームアップラップ1分前のコールがかかる。
「しっかり」
あたしは悠真の肩に手を置いて声をかける。悠真はちいさく頷いて返した。久真とは拳をゴチンとやって、ホームストレートの脇にあるサインエリアに退避する。
ウォームアップラップから戻り、スターティンググリッドについた悠真が、自分自身を抱くように肩に手を回し、肩を上下させて大きく深呼吸する。あれは悠真がレーススタート直前に必ずやる儀式だ。それから気合いを入れるように自分の胸を叩いた。
岩代さんに3タテをくらって、気落ちしているのかと思ったが、いや、しているんだろう。だからこそ気合いを入れたんだ。
グリッドの後方でグリーンフラッグを振られ、レッドフラッグを掲げ持つオフィシャルがゆっくりとした足取りで退避する。
スタートは、レースで一番緊張する瞬間だ。スタートの善し悪しでレースが決まってしまうこともあるし、アクシデントがもっとも起こりやすい瞬間でもある。
レッドシグナルが点灯、エクゾーストノートが凄まじい勢いで高鳴る。
*
サバイバルレースになった。転倒者が続出し、至る所でイエローフラッグが降られている。そんな最中で、悠真はトップを堅守していた。スリッピーな路面で、転倒しないのはもちろん、集中を乱すこともなかった。悠真はよくやってる。あとは――
あたしは悠真の後方に目をやった。ジャスト1秒後ろ、2番手に岩代さんがいた。
彼女は開幕戦こそぶっちぎりの独走優勝を決めたが、第2戦、3戦はトップグループの背後に控え、終盤一気にペースアップして優勝を奪い去るという作戦をとっていた。
このレースもまったく同じパターンで悠真の背後に付けた。この追撃を叩き潰さないと優勝はありない。ポイント差も埋められない。
【L5 GO YUMA!】
あたしはサインボードを出しつつ、腕を振り上げ悠真を鼓舞する。
一方、3番手の久真は岩代さんの背後で、虎視眈々と前にでるチャンスを窺っていた。
――レースが動く。
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