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第 三 章 7
あたしははっきりとした目鼻立ちの男顔で、性格は男まさりの姉御肌。中一の時には身長が160を越えていて、体を動かすのが大好き。生来の負けず嫌いが功を奏して体育祭じゃ大活躍。女子レーサーというのもあり、かっこいいとちやほやされた。主に女子から。男子はいい友達で、それ以外はあたしの胸しか見てなかった。
男子にモテなくても全然構わなかった。だってあたしの恋人はバイク。本気でそう思っていた。夢中だったんだ。
そんなこんなで、初めて付き合った相手は女子だった。
生憎とあたしは同性愛者じゃない。化粧もするし、女性らしい服も着る。唯一の趣味もピアス集め。
ピアスをすると、あたしの男顔が華やいでうれしくなる。要はどこにでもいる多少男まさりな女で、レースと社長とやりあっている時は男だったらと思うだけ。
じゃあなんで女子と付き合ったかというと、ヘルパーが欲しかったから。ヘルパー探しはレーサー共通の悩みで、彼氏彼女にお願いするのはサーキットの定番だ。
最初に付き合ったのは、可奈美って子だった。恋人らしいことは一切せず、デートにすら行かず、ヘルパーとしてサーキットに連れ回してばかり。今思えば、可奈美があたしの気持ちに疑いを持つのは当然で、時間の問題だった。
「可奈美のこと好きならキスしてよ!」
切迫した目で可奈実に詰め寄られた。すごい抵抗感があった。自分のことを名前で呼ぶのもどうにも苦手だった。
でもここでしなかったらヘルパーを失う。それは困る。減るもんでもなし我慢だ。自分に言い聞かせ可奈美の肩に手を置いた。
軽く触れるだけのはずがいきなり舌を入れられ、あたしは面食らい可奈美を突き飛ばしてしまった。パンツ丸出しで尻餅をついた可奈実の「やっぱり!」って鬼夜叉みたいな形相は脳裏に焼き付いている。
二人目も女子で、祥子っていう大人しい子だった。やっぱりヘルパー目当てだったんだけど、わかってしまうんだろう。付き合いだして半年も経った頃だった。
海ちゃん、あたしのこと好きじゃないよね、と静かに涙を流し、別れを告げられた。さすがに罪悪感に苛まれて何度も謝ったけど、祥子は微笑むばかりで、決して許してはくれなかった。
それ以来あたしは心を入れ替えて、女子からの告白されてもちゃんと断るようになった。
二十歳前にレース仲間の宏樹に告白されて、初めての彼氏ができた。
宏樹はあたしを女の子扱いしてくれた。生まれて初めてされた女の子扱いは存外にいいもので、あたしは結構浮かれていた。男と女がする、だいたいのことは、宏樹とした。
それなのに、宏樹は急にレースを辞めると言い出し、あまつさえ別れたいと言う。あたしは自分でもびっくりするほど取り乱して、訳を問いただしたら浮気されていて、浮気相手にレースを辞めろと言われたらしい。
あたしは我を忘れるほど怒り狂ったけど、気持ちが納まるにつれ、これは可奈美と祥子の気持ちを弄んだ報いなのかもしれないと思い至り、怒りは自己嫌悪に変わった。宏樹のことはやっぱり許せなかったけど、思いきり一発ひっぱたいて、ちょっと――いや、結構泣いて終わりにした。
以来、恋人がいたことはない。
こうして振り返るとあたし、まともな恋愛してない。恋愛ベタという自覚がある。
人を好きになるってどういうことだろう。宏樹のことは、好きでいてもらえることに酔っていたというか……。
晶は、あたしのなにがよかったんだろう。ずっと前から好きだったって言ってたけど、いつからだろう。見当もつかない。
晶の顔を思い浮かべる。子供っぽい笑顔がすぐに目に浮かぶ。バイクに乗っている時はかっこいいけど……彼氏っていうより弟なんだよなぁ。
なんて物思いにふけっていると、穏やかな寝息が聞こえてきた。助手席に目をやると、舞ちゃんがふとももに両手を挟んだ格好で眠っていた。
――おやすみ。
意識を前に戻すと、電光掲示板が頭上を滑っていく。今夜の東名高速は順調に流れている。てっぺん前には東京につくだろう。できるだけ早く三人を家に帰したい。
「…………あーぁ、眠いっ」
あくび混じりの独り言を、ついもらしてしまう。たちどころに眠気が襲ってきた。
「運転、代われたらいいんですけど」
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