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「赤、好きだよね。」 突然彼が口を開いた。 それに驚きつつも、私は返事をする。 「…そうかな?…そう、かもね。」 本当にびっくりした。 いつもなら作業中に話したりしないのに。 「かも、なんだ。 いつも赤い服着てるからてっきり。」 あぁ、そう言えば持っている服は赤が多いかもしれない。 「…まぁ、赤ならあなたと一緒にいても汚れないし。」 「何、そのまるで僕が汚れ製造機みたいな言い方。」 ピッと、また赤がとんだ。 ほら、また服に付いちゃった。 こんなに離れてるのに…。 「本当のことじゃない。」 「酷いなぁ。」 へらへらと笑う彼の後ろから、そっと彼の手の先を覗き見た。 あぁ、やっぱり素敵な絵ね。 「あなたこそ赤が好きよね。 赤い絵の具、よく使ってるじゃない。 …まぁ、だから赤い服で来てるんだけど。」 彼の夢は画家になること。 でも、彼は絵を描いているときは構ってくれないから、寂しくていじけちゃいそうになる。 なーんて、口には出さないけれど。 「うん。僕は赤、好きだよ。」 「やっぱり。 いつも赤を基調にした絵を描いているものね。 …あれ、もうこんな時間。じゃあ、帰るね。」 腕時計を確認して、彼にそっと声をかけた。 「もうそんな時間か。じゃあ、また明日ね。」 「うん、じゃあね。」
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