序文:彼女の独白

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序文:彼女の独白

幼い頃読んだ絵本はいつだって、お姫様は王子様と結ばれてハッピーエンドを迎えるものだった。 けれどたった一つ、ハッピーエンドにならないお姫様の物語があるのが、幼い私には不思議でならなかった。恋した人からの愛を得られなかった彼女が迎えた結末には諸説あって、その中でも「風の精になって世界中の恋人を見守りました」というエンディングに幼い私は泣いて怒ったのを、今でも覚えている。 好きな人と幸せになれなかったお姫様が世界中の恋人を見守るなんて、そんなの責苦でしかないのに。どうしてそんな目に合わなければいけないのか。どうしてそれを美談のように後世に語り継ぐのかと涙ぐんで憤慨する小さな私。 私の頭を撫でた大きなあたたかな手のひらは、壊れ物でも扱うように慎重だった。見上げた兄の困った顔に、私はなんだかいけないことをしてしまったと眉を下げたけれど、涙は引っ込んではくれない。ぐずぐず鼻を鳴らして俯いた。 少し大きくなって、原典では恋人たちを見守るのではなく、永遠の命を得るための愛を伝える旅路に就いたということが分かったけれど、それでも私には不思議だった。 童話に出てくるお姫様は苦労を乗り越えて、王子様と幸せになるもののはずなのに。 どうして、人魚姫だけはお姫様なのに王子様と幸せになれなかったのだろう――。
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