ある朝、玄関に見知らぬ少年が

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ある朝、玄関に見知らぬ少年が

ホントに来やがった……。 玄関に立ち尽くす少年を見下ろし、俺は言葉を失っていた。 酔っ払った同僚の冗談だとばかり思っていたのだ。 「海外出張の間、息子を頼む!」 入社以来の同僚・今井は俺のどうしようもない性格を知っているから、大事な子供を預けていくなんて考えられないはずだった。 「……あ、あの……。今井良紀といいます。父がいつもお世話に……」 「あいつ、出張いつからだっけ?」 良紀と名乗った男の子は俺より頭ひとつ分小さく、何より華奢だった。吹けば飛びそうな体を水色のTシャツとブルージーンズに包み、3泊用くらいのボストンバッグを背中にぶら下げている。 「今朝……」 年齢は17と聞いていた。その割に小さいし、顔も女の子みたいで幼い印象だ。 「すみません、ご迷惑とは知ってたんですけど。父はこれを機に引っ越ししようって言って、部屋も解約しちゃったんです」 「なんだと?」 俺は思わず、食いかけのトーストを床に落とした。 良紀がすぐそれを拾ってくれる。 「あ、すまない。きみ、今日学校行くよね?制服は?」 トーストは諦めて、緩んだネクタイを整えながら尋ねる。良紀は「制服はないんです」と答えた。 「じゃあ一緒に出よう。朝メシまだだろ?出たとこに牛丼屋あるから」 「あ、え?」 蚊の鳴くような声で「はい」と返事した良紀を引っ張って部屋を出た。 俺はしがないサラリーマン。遅刻は厳禁だ。
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