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元々、テストの結果を不満に思い咲兎を疎ましくしていた冠馬に、Ωだと感ずかせ襲うよう利用するのは難しいことではなかった。
だが、俺以外の奴に触られているのを見るのは…あまりいい気がしない
俺と互角に張り合える
俺のために誂えた、優秀なΩ。
今すぐにでも手に入れたいが、その気高いプライドは俺にとって邪魔になる。
代々優秀なαしか生まれない“雨瀬”の家で、Ωはαに付き従い、子を産むための存在とされてきた。
Ωに意思はいらない、Ωに言葉はいらない。
母もそうだった。
泣きもしなければ、笑いもしない。
言葉を発しない母と話したことはなく、ただ黙ったままうつ向くその顔は、描かれた絵画のように美しかった。
咲兎が…物思いに耽っている時の横顔に、よく似ている。
将来は家同士で決められたΩと、子供を作ることを約束されていた。
家の外にいるΩは、穢れているので近づいてはいけない。
それは優秀なαの血筋を、勝手に他所で作らないために最初に教えられる決まりだった。
確かに、外で出会ったΩは皆…その容姿がどれだけ美しくても、αを見た瞬間目の色を変えて迫って来る。
αの子供が欲しい。
番にして
私を選んで
自らの欲望を満たすためなら、手段を選ばない。
それはきっと、差別の対象であるΩが生き抜いて行くために身に付けた…消すことの出来ない汚れ
泥沼の中から…必死になって天を仰ぎ、腕を伸ばしながら、すがり付けるαを求めている。
自分にすり寄ってくるΩは、皆そうとしか見えなかった。
下等な生き物に、わざわざ手を出す気もない
このまま、種馬のように家のため子を作り、家のために死んでいくのだと…ずっとそう思っていた
───咲兎と、出会ってしまうまでは
Ωでありながら誰にも媚びず、従わず、決して弱さを見せない。
その揺るぎない価値観が全てを平等に見据え、常に自分の中に答えを持っている。
咲兎は、綺麗だった。
一つ一つの仕草が目を奪う
馬鹿正直で、負けず嫌い。
その細身で…Ωの運命に逆らい続ける姿に尊敬もしたが…
俺を拒む手に触れたくて、抱きしめたくて。
欲しくて、欲しくて…
その感情が、穢れきった支配欲に変わってくのに時間はかからなかった。
こいつに足りないのは…
Ωとしての自覚と、αに対する恐怖心
ゆっくりと…植え付けてやればいい
時期に必ず、自分から俺に従うようになる。
…お前を守っている固いプライドを剥ぎ取って、その価値観を…俺の物に書き換えていく
『咲兎、もう一人で勝手に帰ろうとするな。必ず…俺を待ってろ』
『…なぜ?』
『心配なんだよ、お前が。俺の近くに入れば、他のαは寄ってこない』
『…っお前に、守ってもらわなくても』
『俺といれば、冠馬に襲われることもなかったと思うけどな』
『…それは、』
『なぁ、もっと頼ってくれ。お前の役に立ちたい』
肩を抱く手に力を入れれば、弱った瞳が泳いで逃げて行く。
こいつは以外と押しに弱い
『……ッ分かった。待つから、手…放せ』
『言ったな?…もし、また黙って居なくなったら…』
『…なんだよ』
少し不安げな表情に優しく笑いかけると…肩を抱いている手で、そっと反対の耳に触れた。
『ピアス開けようか。俺と同じの付けてやるよ』
『…は?』
サッとその顔が青く陰った。
そんなに怖がるな…
無理矢理、抉じ開けたくなってしまう
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