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窓から差し込む太陽の光が部屋の中を明るく照らし、すっかり日が昇っていることを教えられた。
こんなによく眠れたのは…何年振りだろう
随分、懐かしい夢を見た気がする…
大学に入って、初めて目にしたαが雨瀬だった。
周りにいる奴らが皆声を合わせて『αには勝てない』『雨瀬には勝てない』を繰り返すから…
あの頃の俺は、ただひたすらαに…彼奴に負けたくないと躍起になっていた。
『αだから優秀』なんてバース性だけで決められた物を認めてしまったら『Ωだから劣等』という言葉を受け入れることになる。
それを…覆してみせたかった。
結局…その後、冠馬に会うことは出来ず
彼奴は大学を辞めていた。
父親の会社が急に傾きだし、多額の借金を背負い倒産したらしい…
俺に手を出し、雨瀬に目を付けられた…このタイミングで
「んっ…」
やけに暖かくて、安心してしまう肌の温もりに…取り込まれないようゆっくりと重い目蓋を開く。
…暖かいはずだ。
要の腕に弛く閉じ込められ…その手は壊れやすいものでも触れているように、優しく背を抱いている。
「───…要」
何かいい夢でも見ているのか…
頬をほのかに赤く染め、緩んだ口が小さく微笑む。
子供っぽい幸せそうな寝顔…
つられてフッと笑みをこぼすと、そっと柔い拘束を解きながら身を上げた。
寝癖がついている、柔らかな髪を軽く撫でる。
細い髪が、サラサラと指の間を通っていく
相変わらず、触り心地のいい猫っ毛…
「───ごめんな」
…本当に、要のことを思っているのなら…すぐにでも、この手を放すべきだ
俺に関わって、雨瀬に目を付けられたら…
今度は、怪我だけではすまされない
冠馬のように…きっと、酷い目に合う
「…要、お前に…幸せになって欲しい」
なのに…まだ、
側にいたい。
お前の居場所は心地いい、その優しさに…触れていたい
俺はいつから…こんな、欲深くなったんだろうな…
もう少し、今だけは…
そのときが来たら、雨瀬がお前に近づく前に…俺は、お前の側から消えよう
「そしたら…俺を、忘れてくれ」
撫で付けた髪に、そっとキスを落とした。
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