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「んっ…んン?咲兎…」
ベットの横を手探り、さっきまで腕に抱いていた体温を探す。
しかし、寝ぼけた目でぼんやりと映し出したそこはすでにもぬけの殻で…
寂しさに少しムッとして、内心ふくれながら起き上がった。
小棚の上にある時計に目をやると、もう10:30を越えている。
一緒に起こしてくれてもいいのに…
というか、咲兎に起こしてもらいたかった
洗面所の方から聞こえる水音に気付き、ふらふらとそちらへ歩いて行くと、ちょうどシャツを羽織る綺麗な後ろ姿を見つけた。
昨日、俺は
抱いたんだよな
…この人を
ふわふわとした自信を確かにしたくて、そっと伸ばした腕で細い腰を抱き寄せた。
驚いた肩が跳ねて、僅かに身を固くする。
「咲兎、おはよ」
「っん…要」
「体、大丈夫?」
肩に手を回し何気なく額を預ければ、優しくて安心する匂いにホッと息をつく。
「あぁ…俺は、別に…お前は?」
「え、俺?」
咲兎は振り返り小さく顔を見上げると、そっと手を伸ばし、要の頬に触れた。
「まだ、痛むか…少し赤いな」
あぁ、怪我のことか。
思わずはにかみ、その手を取って軽く頬に押し当てる。
「大丈夫だよ。もう治った」
「そんな早く治るか、昨日の夕方だぞ」
「ん~昨日の夜、咲兎に癒してもらったから…その効果」
「癒し…?
……ッあ、れで…治るわけないだろ…」
視線を逸らし、伏せた目元がなんだか色っぽい
一度手を出してしまったからか、欲の歯止めが効かない…
僅かに開いたその口にキスをしたくて、誘われるように頬へ手を添えた。
「ッ…待て、朝からがっつくな。少し休ませろ」
「どのぐらい…?」
あからさまに肩を落として悄気ると、切なさを目で訴える。
「お前な…昨日、散々…」
「俺は今したい」
拒まれると余計やりたくなるのがαというか俺の性だ
手を取ったまま頬を押さえて顔を寄せる。
色素の薄い瞳が揺らめいて、観念したように下へと逸れた。
…綺麗だけど、感情を見せないその表情はあまり好きじゃない。
「咲兎…目、閉じて」
そのまま口を近づけ、鼻先を掠めると…目蓋の上にそっとキスをする。
「んっ……要」
「…やっぱり、少しなら…待てる。そしたら咲兎からしてよ」
「っ…覚えとく」
一言だけそう答えると…
恥じらいに目を伏せて赤らめた顔が、どこか安心したように…嬉しそうに微笑んだ。
その優しげな表情が酷く綺麗で…つい見とれてしまう。
「…ねぇ、咲兎」
ずっと側にいて触れていたい。
このまま時間が止まればいいのに
「また、抱かせて…これっきりなんて嫌だ。絶対…雨瀬なんかに渡さない」
短い髪を撫で顔を寄せる。
ベットの中で、必死にしがみついてきてくれた手は…ちょうど体の間に入って密着することを拒んだ。
何かを伝えようと、一瞬開きかけた咲兎の口から…ただ意味をなさない浅い呼吸が漏れる
「…要
雨瀬とは…俺が話をつける
お前は、なるべく彼奴と関わるな」
…えっ
離れていく体温に、虚しさだけが手元に残る。
咲兎が横を通り過ぎて行くとき…ふと気付いてしまった。
咲兎にとって、雨瀬はただの恐怖の対象ではないんだ。
もっと対等で、特別な…今の俺では、成り得ない相手…
耳鳴りのような迫り来る不安感に、片手で額を押さえる。
教えて欲しい…その本心を
何を、望んでいるのか
何を、求めているのか
俺に…どうして欲しいのか
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