自慢

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自慢

「One’s philosophy is not best expressed in words; it is expressed in the choices one makes … and the choices we make are ultimately our responsibility. ───」 教室の中に、相変わらず凛とした綺麗な声が響いていた。 その滑らかな英語の口調を追って、紙を捲る音が流れる。 皆が教科書の文に集中しうつ向いているなか、要は一人だけ顔を上げ頬杖をついたまま目に写る咲兎の姿を呆けたように見つめていた。 心地いい声に、いつもながら聞き入ってしまう。 …かっこいい あの夜のことが嘘みたいだ あぁ、触りてぇ… 「…新伊君ちょっと見すぎじゃない?先生のこと」 不意に真横から声を掛けられ、思わず跳び上がる。声を出さなかったことを褒めて欲しい。 「神戸っ…お前、いつの間に」 「いや最初から隣にいたから。やらしいねぇ、なに考えてたの?」 「は?や、別に…何も」 「ふ~ん…ねぇ、新伊君さぁ…もうちょいこっち来て」 「…何だよ?」 神戸はグッと体を近づけると、要の耳元で囁いた。 「先生のこと…抱いた?」 一瞬、脳がフリーズして真顔のまま固まる… 再起動すると同時に、声を上げ席を立った 「だッ…!えっ!?なにッ……あっ…」 「要…?どうした」 静かな教室に自分の声が響き、こちらを見た咲兎と目が合ってますます顔が熱くなる。 穴があったら入りたいとはこの事だ。 「な、何でもな…」 「先生!新伊君、気分悪いみたいなんで僕保健室に連れていきます!」 「えっお前、なに勝手ッに…!」 無理やり腕を引かれ、ドタバタと教室から騒がしく出て行く。 絶対気分悪そうには見えない。 というか、よくも俺の癒し時間を… 離れていく教室…もとい咲兎の声を名残惜しく思いながら、今だ腕を掴む神戸の手を振りほどいた。 「…お前、何で…その…抱いたって、気付いた」 「そりゃ気付くよ、盗撮してるもん」 「…え、は?…っ」 「嘘だよ、嘘!家も知らないのに出来るわけないじゃん。新伊君、詐欺とか気を付けてね」 「ッ…!お前なっ、」 「新伊君がバカなのは仕方ないとして…キミ先生にαの匂い付けすぎだよ。多分クラスの皆気付いたんじゃないの、先生に独占欲の凄いαの恋人がいるって」 「…何だよ、それ」 「キミって無自覚に(けだもの)だね」 呆れた、といった感じで神戸は肩をすくめる。 「無意識のうちにやったんなら尚更たちが悪いね…αの匂い付けは普通Ωにしかやらないんだよ。βにやることもあるけど…βは他のαに取られて番にされる心配はないから …先生は上手いこと抑制剤でΩの匂い隠してるけど、新伊君がわざわざΩだって張らすようなことしてるのはどうなのかな?って思っただけ」 そんな…っ ショックにその場で立ち止まった。 知らなかったとは言え、αしかいないこの校舎で、αの欲の匂いをまとったβが一人いたら確かに目立つ… 咲兎を…裏切ったようなものだ 「まぁ、そんな落ち込まないでよ。うちのクラスに出来のいいαそんないないし…そのわりにプライドは高いから、先生をΩだとは思わないよ」 「神戸…お前、それを俺に伝えるために…」 今まで微塵も思ったことなかったけど…こいつは以外と良い奴なのかもしれない。 Ω大好きだし、変態だし、かなりウザいけど… 「ありがとな…気を付けるわ。じゃあ、早く戻って…」 「おっと、何処に戻ると言うのかね?」 再び腕を掴まれ引かれると、何気なく歩きだす。 「何処って…咲兎にも教えないと、多分気付いてないから」 「新伊君…本題はここからだよ」 険しい表情に惑わされ、仕方なく付いていく… たどり着いたのは言っていた通り保健室で、辺りを気にするように、その中へと押し込まれた。
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