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一体いつからそこにいたのか…
まるで雨に濡れた猫のようにじっとして、大きな瞳で三萩の顔を見つめている。
知らない奴が見たら、ガンつけていると思うだろう。
別に喧嘩を売っているわけではない
こいつは特別下手くそなのだ…感情を出すのも、読み取るのも
自ら緤の元に歩いていくと、その前で立ち止まった。
「そうとは…言ってねぇだろ」
「…三萩さん」
僅かに笑みを湛えた口元が、俺の機嫌を伺っている。
「…昨日、無理やり玩具使って泣かせたことまだ怒ってますか?」
「………泣いてねぇ」
「すみません。僕、興奮してしまって…三萩さんが想像以上に嫌がるから可愛く…」
「緤、お前ちょっと黙れ」
長いため息を付き、慣れた手つきで煙草を携帯灰皿に押し込む。
昨日の夜…
やけにニコニコと笑いながら、店先にまで迎えに来たこいつの相手をしてしまったのが間違いだった。
緤はイラついているときほど不自然に笑っている。
サディズムの性向を多少なりとも持っているこいつは、時折枷が外れたように手酷く俺のことを抱く。
仕事のストレスだったり…高ぶった感情の捌け口として
化け物のような体力に、Ωの俺が付いていけるはずもなく…
それでも必死にしがみついているというのに、別の物まで突っ込まれて遊ばれたら堪ったものじゃない。
『やめろ!』と抵抗しても止める気配のない緤にぶちギレ、その腹に思い切り蹴りを入れたところ…
余計に興奮を煽ってしまい、それはそれはレイプ紛いに押さえつけられ、酷い抱かれ方をしたのだが…
…緤と番になる前は、欲制剤を受け付けないこの身体のせいで発情期になる度に…その辛さから逃れるため抱いてくれる相手を探していた
ただその時だけ付き合ってくれればそれでいい。優しさなんて期待していない
ねじ伏せられるようなセックスには慣れてる…。
…はずだったが
緤にヤられるとなかなか応えた…
身体もそうだが、柄にもなく心の方が…
「…三萩さん」
座ったまま手を伸ばした緤の指先が、そっとシャツを引っ張った。
「屈んでください…キスがしたいです」
「……」
どうして、こいつと番に成ったのか…
そんなの俺が知りたい。
…緤は何故、俺なんかを番に選んだんだろうな…
言われるまま近づき、身を前に倒した。
顔に伸ばされる手に恐々と目を瞑り、口を僅かに開く…
しかし…触れた手のひらに引き寄せられると、スッと回された腕が力強く肩を抱きしめた。
「千寿───ごめん…
どうしたら…許してくれますか」
その声は小さく不安気で、肩に触れる熱い指先も僅かに震えている。
良かった…
まだ…飽きられたわけでは無さそうだ
安堵し、体の力を抜くように緤へ手を添えると…そっと柔らかな髪を撫でる。
「…抱けよ。
…優しく、抱いてくれ」
子供を孕んだとき…
俺は緤にとって用無しになるんだろうか
いつか終わるものに、遠慮なんかしない
望みすぎだなんて言わせない
うなじを噛まれたあの日から…
俺を生かすも殺すも、こいつ次第なのだから
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