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「っ…な、んで…そうなんだよ」
おかしいだろ
普通に口喧嘩をしていただけなのに…どうして、何がそんなに気に触った?
「今…気分悪いから絶対吐く…」
「あ?別に俺は吐かれてもいいぜ、掃除が手間なら風呂場でやるか?」
「…ッやりたくねぇ」
「逃げんなって……そう嫌がんなよ。また、最後までやりたくなっちまうだろ?」
座ったまま羽黒を見上げ、そっと後ずさった。
やたら甘ったるい香りの煙を揺らして、そいつは千寿の前に戻ってくる
伸ばされた手に肩を掴まれ、咄嗟に嫌がり腕を上げる…しかし、まるで動きを分かっていたようにその手首を握り取られた
「ッ───」
ベルトが擦れた傷口に、羽黒の指が触れる…
痛みに震える指先から目を逸らし、流れる冷や汗を隠すようにうつ向いた。
「…傷になっちまったな。…血出てる」
紐状の跡がついた腕を見つめ…羽黒はため息混じりに呟く。
女のように細く白いΩの腕。
だがスラッと伸びた理想的な指はあまり手入れされておらず、ずっと居酒屋の厨房で働いているせいでひび割れてかさついている
掴んでいる肩の二の腕には火傷の痕があった…
いつ、どうして出来たのか…
なんて、千寿は教えてくれない。
…こいつにとって俺はただのセフレで、その傷にはあまりにも…関係がないから
「───なぁ…」
今さら、清いお友達だけになんて戻れないし、戻りたくない…
別に、このままだっていい
こいつに…番なんてものが、現れなければ
「お前、手当ての道具とか持ってんの」
予想していなかった羽黒の言葉に、意味が理解出来ず喉が詰まった。
「…っは?」
「……ねぇなら買ってくるわ。お前は寝てろ」
手を放し、少し不機嫌なまま羽黒は立ち上がる。
「ぁ…っ待て …そこの押し入れに…あるけど…どうした?お前が手当てなんて…逆に怖ぇよ」
「うるせっ、傷口見たら萎えちまったんだよ。横になって腕だけ貸してろ…それとも、本当は今すぐしゃぶり付きたかったか?」
「…絶対やらねぇ」
「ははッお前、本当可愛くねぇな。いいから早く腕出せって…優しくされんのは好きだろ」
いつもと同じように笑いながら、押し入れから見つけ出した救急箱を片手に羽黒に急かされ…その手元へ戻っていく
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