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羽黒は一旦煙草を灰皿に預けると…胡座をかいて腰を下ろし、自身の袖を捲り上げた。
その引き締まった両腕の上を、筋肉にそって見える筋が手首まで続いている。
程よく血管が浮き出た手の甲は、自分より遥かに男らしい
再び布団の上で横にされ、その手にされるがまま腕を取られる。
いつもの押さえ付けるような触り方とは違い、まるで壊れ物を扱うように慎重だった
傷薬を塗られ、その上を丁寧に包帯で巻いていく…
少しきついと思いながら、器用にことを進めていく羽黒の手をぼんやりと見つめた。
「…お前さ、αと番てぇとかって思ったりするの」
不意に口を開いた羽黒の声に、その顔を見上げる。
目が合うことはなく、表情の無い瞳はじっと包帯を巻く手元に向いていた
「よく知らねぇけど…発情期って番が出来ると楽になんだろ?お前もどっかのα様にすり寄って番てぇか」
「…α…様な…」
それは番が出来れば、発情期のたびに抱かれる相手を探す…今の腐った泥沼に浸かったような生き方から抜け出すことは出来るだろう
ただ一人の番に愛され、守られて…
互いを受け入れ、認めてもらえる。
だが、そんなの…
夢見がちなΩがαに思い描いた空想だろ
「…番は作らねぇよ」
もしうなじを噛まれた後、裏切られて番を解消なんかされたら…
抑制剤を飲むことが出来ない俺は、誰かに抱いてもらう手立ても無くなり…一人でひたすら発情期の熱に苦しんでいるしかなくなる
そうなったら
死んだほうがましだ
「へぇ…なんで」
「…めんどくせぇ。わざわざαに媚売って抱いてもらうなんて…
大体、俺みたな可愛い気のないΩ。番にしたいと思うのは悪趣味な変態しかいねぇよ」
「…そっか、お前抱かれてる時は可愛いけどな」
「…あ"ッ?」
「睨むなよ、そこは照れるとこじゃねぇの?
…まぁ、発情してなきゃ可愛くねぇのは確かだ」
…人の気も知らないで
俺が番を作れないのがそんなに嬉しいのか
したり顔に笑みを浮かべ、いつの間にか悪そうだった機嫌も良くなっていた。
巻き終わった包帯をテープで止め付けると、その手が腕を撫でるように…二の腕を伝って肩までゆっくりと滑り込んでくる。
顔の横に手をつき、羽黒は腰を上げるとそのまま三萩の肩を押して仰向けに転がした。
横から覆い被さるように、上から細められた瞳が見下ろしている。
「…ッおい、」
「そろそろ、第2ラウンド欲しいんじゃねぇの?フェロモン濃くなったの俺でも分かるわ…すげぇΩの匂い」
「っ……ぁッ…やっ、待てッて…羽黒ッ」
顔を近づけ、首に舌を這わす羽黒の肩を今出せるだけの力で押し返す
ビクともしなかったが…
それでも少しは邪魔になったようで、羽黒は迷惑そうに身を持ち上げた
「……ッんだよ、抱かれてぇんじゃねぇの」
「うるせぇ…ッ少しは俺の話も聞けよ!」
「…何だよ」
獲物を前に獣じみた瞳が、止められたことに酷くイラつき…睨むように目が据わっている
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