番外編 三萩と過去

9/32
前へ
/227ページ
次へ
「ッ……なぁ…羽黒。 お前、発情期にしか顔見せねぇから…セックスしかやんないし…… …っ飽きたって言うか…今度、どっか…」 ごもった口を、羽黒の手が鷲掴むように押さえ付けた。 反射的にその手を掴む。 驚きに戸惑う瞳を、上から見下す目が蔑むように見ている 「…はッ?なにそれ…俺に抱かれんの飽きたってこと?」 は…? ぁ…… あぁ…ちが、う …違っ そんなことを言いたかったんじゃない 俺は、ただっ…どっかお前と飲みに行きたかっただけで、また学生の頃みたいに…横並びに(つる)んで歩きながら、他愛ない話を…したくて… Ωの体が目当てでしかないお前を誘うには…どうでもいい理由を立てないと、切り出せなかったんだ 必死に伝えようにも口を塞がれてては声にならない、首を振ろうとしたが抵抗していると思われたんだろう。 余計強く押さえつけられ、指が皮膚に食い込み顔が痛い… 「ははっ!…そっか。悪い、気付かなかったわ。感じてる演技上手いんだな…喘いでんのもわざとだったか? …発情期のたびに相手作って、散々抱かれまくってんだ…そりゃ飽きるよな …だったらもっと早く言えよ。 いい物、持ってるから」 羽黒の手が口から外れた。 その(てのひら)から、唾液が糸になってすぐに切れる。 …痛ぇ 指を唇に当てると血が付いていた。 塞がれた時に歯で切れたんだ… 「っ…羽黒、違うっ 俺はッ、」 「千寿…今日、本当は誰に抱いてもらうつもりだったんだ?…そいつは俺より、気持ちよくしてくれんのかよ」 羽黒は自身の鞄から灰色の袋を取り出し、それを前触れもなく布団の上へ投げて寄越こした。 落ちた衝撃で袋から散らばった中の物に、顔から血の気が引いていく。 様々な形、大きさをしたグロテスクな色合いのバイブ…ローターとローション。 きっと付き合っていた相手と、散々遊んだ物だろう 「好きなの選べ、突っ込んでやる。…いや、安心しろよ…全部使ってイかせてやるから」 発情は…抱いてもらわなければ楽にならない。 玩具を入れられどんなに快楽を与えられようと、一人で自慰行為をしているのと変わらない 望んでも望んでも与えられず、体力だけ奪われていくのは…体が辛いだけだ 「ッ嫌だ…やらねぇ」 「…これ以上イラつかせんなよ…足開け」 「───ッヤらねぇって言ってんだ」 わざとらしく舌を打つ音が聞こえる。 面倒そうに足を運ぶ、そいつの目を睨み返した 伸びた手が胸ぐらを掴み、引き寄せる。 力が入らない手で羽黒の腕を握った。 発情のせいで酷く体が熱い…荒く、短い呼吸を繰り返す姿を、涼しい顔をしたそいつに見られているのが嫌だった。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1869人が本棚に入れています
本棚に追加