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「ッ……なぁ…羽黒。
お前、発情期にしか顔見せねぇから…セックスしかやんないし……
…っ飽きたって言うか…今度、どっか…」
ごもった口を、羽黒の手が鷲掴むように押さえ付けた。
反射的にその手を掴む。
驚きに戸惑う瞳を、上から見下す目が蔑むように見ている
「…はッ?なにそれ…俺に抱かれんの飽きたってこと?」
は…?
ぁ……
あぁ…ちが、う …違っ
そんなことを言いたかったんじゃない
俺は、ただっ…どっかお前と飲みに行きたかっただけで、また学生の頃みたいに…横並びに連んで歩きながら、他愛ない話を…したくて…
Ωの体が目当てでしかないお前を誘うには…どうでもいい理由を立てないと、切り出せなかったんだ
必死に伝えようにも口を塞がれてては声にならない、首を振ろうとしたが抵抗していると思われたんだろう。
余計強く押さえつけられ、指が皮膚に食い込み顔が痛い…
「ははっ!…そっか。悪い、気付かなかったわ。感じてる演技上手いんだな…喘いでんのもわざとだったか?
…発情期のたびに相手作って、散々抱かれまくってんだ…そりゃ飽きるよな
…だったらもっと早く言えよ。
いい物、持ってるから」
羽黒の手が口から外れた。
その掌から、唾液が糸になってすぐに切れる。
…痛ぇ
指を唇に当てると血が付いていた。
塞がれた時に歯で切れたんだ…
「っ…羽黒、違うっ 俺はッ、」
「千寿…今日、本当は誰に抱いてもらうつもりだったんだ?…そいつは俺より、気持ちよくしてくれんのかよ」
羽黒は自身の鞄から灰色の袋を取り出し、それを前触れもなく布団の上へ投げて寄越こした。
落ちた衝撃で袋から散らばった中の物に、顔から血の気が引いていく。
様々な形、大きさをしたグロテスクな色合いのバイブ…ローターとローション。
きっと付き合っていた相手と、散々遊んだ物だろう
「好きなの選べ、突っ込んでやる。…いや、安心しろよ…全部使ってイかせてやるから」
発情は…抱いてもらわなければ楽にならない。
玩具を入れられどんなに快楽を与えられようと、一人で自慰行為をしているのと変わらない
望んでも望んでも与えられず、体力だけ奪われていくのは…体が辛いだけだ
「ッ嫌だ…やらねぇ」
「…これ以上イラつかせんなよ…足開け」
「───ッヤらねぇって言ってんだ」
わざとらしく舌を打つ音が聞こえる。
面倒そうに足を運ぶ、そいつの目を睨み返した
伸びた手が胸ぐらを掴み、引き寄せる。
力が入らない手で羽黒の腕を握った。
発情のせいで酷く体が熱い…荒く、短い呼吸を繰り返す姿を、涼しい顔をしたそいつに見られているのが嫌だった。
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