番外編 三萩と過去

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…深い眠りから起きた後の倦怠感が嫌いだ。 強く揺さぶられていたせいで体に残る痛みと、一人で横たわる部屋の寂しさで目が覚めればなおさら… ゆっくりと瞬きながら、意識がしっかりしてくるのを待った。 出窓から差し込んでくる光が、望んでもいないのに日付が変わったことを教えてくれる。 羽黒…彼奴は… 大学に行ったのか…? チクリと傷んだ手首に目を向ければ、羽黒が巻いてくれたはずの包帯も乱れてほとんど取れかかっていた …勿体ない 自分で巻き直そうとしたが、余計汚くなるので結局取り外すことになる… …昨日、どうなったんだっけ 記憶は酷く曖昧で、途中から電波の悪いラジオみたいにぶつぶつと途切れている。 何となく思い出そうとしていると… 不意にこの体へ腰を打ち付ける、羽黒の余裕ない表情が(よみがえ)り… 彼奴に向けられた強い欲情を帯びた眼差しに、心底深いため息を吐いた 俺は多分…自分勝手で暴力的な、どうしようもない彼奴のことが… こんな不毛な関係をだらだらと許してしまえるぐらいには、好きなんだろう 都合のいいこの体は、抱かれれば愛してもらえていると勝手に思い込んでしまうから… きっと、脳も勘違いをしてしまっている。 羽黒が興味あるのは… 俺の気持ちではないのに 何とか身を起こし布団に座ると、一通り身体に目を通した。 ドロドロのひどい有り様を想像していたが… 大雑把にだが軽く拭いてもらった跡があった。 ヤり終わったあと…そのまま(ないがし)ろにされていないだけでもホッとする だがまだ、中に出された液体の気持ち悪さが、腹の中に残っている… ピルも飲まされたかどうかも覚えていない …こんなことで孕みたくはないな 立ち上がろうとして体に響いた痛みに…思わず唸り声を上げてよろよろと前に手を付いた ズキズキと軋む腰を無意識に押さえる。 「っ…ぅぅ″~ッ…… クソッ彼奴っ…無茶苦茶やりやがって…」 ため息を吐き、ピルが入っている棚の引き出しまで這って行くと…その中から小瓶を取り出し掌に開け飲み込んだ。 …疲れた 風呂は…もうちょい、休んでから… 羽黒は俺が意識飛んだ後の方が、いつも楽しんでる気がする。 マグロ相手にした方が興奮するってどんな性癖だよ… 落ちていたタオルケットを羽織って、灰皿が置いてある窓の縁に身を預けた。 見れば灰皿の横に羽黒が吸っていた煙草の箱が置いてる …忘れて行ったのか いや、そもそも大学持っていく物でもないな 彼奴が規則を気にするとも思えないが… 手に取ると、勝手に中から一本取り出し口に咥えた。 軽く息を吸いながら、ライターでその先端に火を付ける。 肺の中を甘ったるい匂いが満たしていった …相変わらず女受けが良さそうな軽い煙草 それを追い出すように薄い煙を吹かせば… 頭の中が、少しは晴れるような気がする 曇った窓ガラスから見えるいつもと変わらない景色を、(ほう)けたようにじっと見つめた… 『…Ωってのはホント…最高に良くできたオナホだよな』 …まるで誰かが切り取って張り付けたみたいに、昨日の記憶に残るその言葉だけが…やたら鮮明に耳の奥で巣食って喉を締め付けた。 …分かってる 分かってたさ…お前が俺を玩具ぐらいにしか思ってなかったことぐらい それでも構わなかった。 彼奴に抱かれるのは嫌いじゃないし…何より、側にいたかったから受け入れた。 それ以外…羽黒が俺に会いに来る理由もないのだから でもそれも… そろそろ、限界だな… いつからだろう…彼奴に抱かれる度に、苦しいと感じるようになったのは 抱かれる度に、キスをされる度に…勝手に期待しては後悔する 泣くには余りにも惨めだ だが自分を見てほしい相手に…玩具扱いされて耐え続けられる自信もない きっと、帰ってきたら彼奴はまた俺を抱くだろ 発情してるから、体はそれを望んでしまう… そうなれば今度こそ 苦しさに、息が詰まって死んじまうな… …だったらいっそ 期待も何も望めないほど、酷くしてくれたらいいのに… 二口ほどしか吸わなかった煙草を押し潰し、窓際で転がっていた自身のスマホに手を伸ばした。 …許せよ、縡也(ことや)。 ちゃんとその内向き合うから… 今は逃がせって… 電話帳から適当な番号を選んでタップする。 「…なぁ、俺だけど…今晩空いてる?…泊めてくれねぇかな……あぁ、いいぜ…迎え来てくれよ…」 ふらつきながら立ち上がり…タオルケットを肩から落とすと、そのまま風呂場へと向かった
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