編入生はΩ好き

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編入生はΩ好き

最近、スーさんは高校サッカーに忙しく三年生のαとエースの座を競い合っているそうだ。 その伸び方は凄まじく、すでに若きエースとして雑誌で紹介されたり複数の団体からスカウトされているとか。 サクは相変わらずだが、やはりα家系の両親と兄姉の目が厳しいらしくあまり遊びにも行けない。 だがサク自身、兄姉たちをいつか蹴り落して自分が会社を引き継ぐことを考えているので、別に苦ではないらしい。 一方で要はというと、 特に運動をしているわけでも、両親が財閥のお偉いさんという訳でもないので放課後になると自由だった。 そのお陰で、いつも何だかんだ面倒な顔をしながらも自分を受け入れてくれる咲兎の元へと行ける。 会えば会うほど、癖になり。 話せば話すほど、知りたくなる。 考え事をすると動いてしまう指先も、時折つく浅い溜息も、希に見せる吐息をつくような笑い方も、 一度ハマってしまうと抜け出せなくなる。 あぁ、どうすれば早く自分のモノにできるのだろう───。 そう考えたところで、要は慌ててα抑制剤を取り出しそれを一錠口の中に放り込んだ。 静まれぇ、静まれぇ、俺の中のα。 もう二度と、無理やり襲って怪我などさせてなるものか。 俺はΩを食い物にするような、獣ではないのだから。 * 「あぁ、そうだ。今度αのクラスに一人、編入生が来るらしいが担任から何か聞いているか?」 話題を変えるように突然振られたその話に、要は顔を上げると数回瞬きを繰り返した。 「編入?いや、初めて知った」 担任と言っても、帰り頃に明日の連絡をしに来るだけなので、はっきり言って名前さえちゃんと覚えていない。 と言うか、編入生の話は連絡事項に入っていなかったのだろうか? 「…そうか」 含みを持ったその声に、要の精神がピリピリと震える。 この感情は何だっけ…? 身体中が警戒しているような… 「その生徒、気になるの?」 「…嫌な噂を聞かされてな」 咲兎の手が、デスクの上に置いてあった分厚いファイルの背をなぞった。 俺に話していいものか、考えているのだろう。 「教えてよ。俺も、何か役に立てるかもしれない」 要の言葉に、その指先がピクッと止まる。 「……ただの噂ならいいんだが」 そう呟いてから、溜め息混じりに話始めた。 「名前は神戸(かみど) (りゅう)。前の高校では、学校中のΩに手を出して…二人ほど、孕ませたそうだ。」 「……え?」 要は驚きに目を見開いた。 孕ませたって…妊娠させたってこと? 「それって、犯罪じゃないの?なんで…そんな奴が、この学校に来んの?」 「…こいつの父親がなかなかの名医らしくてな。大方、金と薬で全てなかったことにしたんだろう。」 法的に弱いΩは、もし訴えを起こしたとしても勝てる見込みが少ない。 それならすでに相手から差し出されている金と薬を、口止め料として受け取った方が身のためだった。 「この学校はαとΩで校舎が別れているし、行き来も禁じられている。それを知った両親が編入先をここに選んだそうだ。」 手当たり次第、学校中のΩを襲った生徒。 そんな奴が同じクラスに来るなんて、もし先生がΩだとバレたら… 孕まされて… ゾクッと背後に悪寒が走ったのと同時に、冷や汗が額から流れ落ちた。 それって、先生がすごく危ないんじゃ、 「俺は、神戸がΩの校舎に忍び込まないかが心配だ。」 …えっ? 「要、お前は神戸の様子を見張っていてもらえないか。」 …やっ、確かにそんな奴がΩの校舎に入り込んだら大変だし。同じクラスの俺に、見張り役が合っているのも分かるけど… モヤモヤする。 何だろう、凄いモヤモする。 しかしその思いは、突然職員室に鳴り響いた電話の音に遮られた。 何でもΩの校舎からだったらしく、急いで向かわなくてはならないらしい。 「要、神戸を頼んだぞ」 そう言い残して、職員室から離れていく見た目よりも薄い背中を見送った。 そして、ふと気がつく。 先生は俺に、自分を助けて欲しいとは言わなかった。 俺はきっと先生が危険だと思った時、助けを求められるのを期待したんだ。 未だにモヤモヤと渦巻く胸元が、空しいような、歯痒いような。 それを手で覆い隠すように、強く握りしめた。
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