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天然ウサギ
授業も終わり、放課後の職員室はいつも静かだった。
αの教員たちはその教科のスペシャリストや、現役で活躍している人がほとんどだ。
学校で働いている訳ではなく、学校から以来を受けて授業を行っているのでチャイムが鳴れば早々に帰っていく。
時折暇なのか、終わってもなかなか帰らず人の授業に割り込んでくる数学者もいたりするが。
咲兎は、この誰もいない職員室の静けさを気に入っていた。
規則正しくリズムを刻む時計の音を聞きながら、無機質に並べられたデスクに囲まれた空間は仕事がよく進む。
しかし、それも少し前までのことだ。
「先生いつになったら帰んだよー」
「…お前こそ、いつまでここにいるつもりだ」
『あの日』以来、放課後になると必ず要が職員室にやって来る。
他に教員がいないのをいいことに、誰かの椅子を勝手に座っては咲兎の隣でうだうだと時間を潰していた。
「え…先生が帰るまで?てか、そろそろどこに住んでるのかぐらい教えてよ」
「…俺の家の場所を知ってどうする」
「ん、遊びに行きます」
…身の危険しか感じない
「却下だ」
「えっ、なんで!?……先生、俺と付き合ってるの本当にわかってる?」
さも当然と言うような要の表情に、咲兎は軽くめまいを起こした。
こうなったのも要の付き合いたいという気持ちに、咲兎が折れに折れて折れきった結果だった。
こんな年上の、しかも男で堅物みたいなやつと付き合って何が楽しいのだろう。
「なぁ、先生聞いてる?」
除き混むよう顔を近づけてきたので「近い」と一言告げながら、その頭を手のひらで押し返す。
その動作だけでも要は嬉しいみたいで、猫のように目を細めて笑った。
いや、このしつこさで例えるなら犬だろうか。
「先生いつも手離すとき、撫でてくけどそれってわざと?」
「…いや、撫でてるか?」
「うん、少し。その様子だと無意識っぽいな」
天然たらしだなぁ。なんて言いながら笑う要に、咲兎は首を傾げた。
「いや…髪の触り心地がいいんだろう」
そう言うと、確認するため再び要の頭に手を伸ばす。
撫で付けるように、顔の横から髪へ指を通した。
耳の凹凸を感じながら、指の間をサラサラ流れるように細目の髪が通っていく。
やはりとても気持ちいい。
「……あのさ、先生」
「ん?」
徐々に要の顔が赤らんでくる。
「無意識にも限度があると思います…」
顔を手で隠しながら塞ぎ混んでしまったので、咲兎はその頭上をトントンと軽く叩いた。
「要?気分が悪いなら早く寮に帰れ。」
「うぅ…先生のせいだからぁ。天然、鈍感、せめて気付けよぉ…」
「え…いや、済まない?」
何がそんなに要の気に触ったのか分からないが、その狼狽えた様子に思わず謝った。
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