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廊下を歩いていると鏡花の姿が思い浮かんだ。顔もわからぬシルエット姿の青年実業家とレストランで楽しそうに笑い合う姿がイメージとして形成されていき、遼はもやもやとした気持ちになる。
城ヶ崎の話によれば、そのイケメンは両親がお金持ちで、小さい頃から英才教育を受けていたらしい。
・・・ずりぃよ。
家が裕福でルックスとスペックに恵まれてる。それに比べて俺の家は両親が共働きでようやく普通の水準。ルックスもスペックも親譲りの平凡さ。
まったく・・・この世の不公平だ。
校舎を出る前に炭酸のメロンジュースを購入しようと自販機の前に立つ。
嫌な気持ちになったときは炭酸ジュースを飲むと多少すっきりする。大人からすればビールを飲むような感覚だろう。
自販機のボタンを押すと紙コップにジュースが注がれていく。
遼はカップを持って、下駄箱に向かう。
周りに教師がいないことを確認して携帯電話をポケットから取り出し、歩きながらスマホを操作する。
すると、つまずいてしまい、ちょうど突きあたりの廊下から出てきた女の子にメロンジュースが勢いよくかかってしまう。
「きゃっ」
白川華夜(しらかわかや)は驚いた表情で遼を見る。
「すいません! つまずいてしまって!」
遼は慌てて釈明する。
華夜は儚げな微笑みを浮かべる。
「大丈夫です」
華夜の物腰柔らかそうな声が耳に届く。
遼はドキッとする。華夜の綺麗な顔に浮かんだ儚げな微笑に魅せられ、時が一瞬止まったような気がした。
華夜は何事もなかったように歩きだす。黒の長髪がさらさらと揺れている華夜の後ろ姿を遼は間の抜けた顔で見つめていた。
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