ワケあり少女

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華夜が去り、姿が見えなくなったあとも遼は魂の抜けたような気持ちで立っていた。 「田中!」 後ろから自分を呼ぶ声がして、ようやく我に返る。 振り返るとクラスメイトの村田圭介がこちらに向かって歩いてくるのが見える。 「おい、昼休みまでの提出書類まだ出してないだろ。田辺が教室に来てマジ切れしてたぜ」 言われて気づく。再三、今日の昼休みまでに提出するよう教師から言われていたことを失念していたのだ。 「やばい・・・完全に忘れてた」 村田は同情した表情になる。 「今からでも職員室に行ったほうがいいぜ」 遼は頷く。これなら説教のあとに炭酸ジュースを購入するべきだったなと思う。 「行ってくるわ」 紙コップに入ったジュースを一息に飲んでしまったあと2階へ続く階段に向かって歩き出す。 階段を昇っていると鏡花が上から降りてきた。 「あ、田中くん」 城ヶ崎に声をかけられるだけで、その時間が特別のように感じられてしまう。 「城ヶ崎さん」 鏡花は少し心配そうな顔をする。 「さっき教室に田辺先生が来て、提出物を出さずに帰ったって怒ってたよ」 「ああ、村田から聞いた。今から職員室に行ってくる」 「そっか、今から怒られに行くんだね」 遼は苦笑する。 「まあね」 鏡花はポケットの中に手を入れ、何かを握った手を差し出す。 「はい、これ」 「?」 遼は手のひらを差し出す。 すると、手のひらの中にアメ玉が置かれる。 アメ玉を置かれたときに鏡花の指が手に触れ、遼の気持ちが弾む。 「ファイト!」 ふわりと鏡花は笑み、軽やかに階段を降りていく。 手の中にあるアメ玉はどこにでも売っているようなものだが、遼にとっては食べずにずっと残しておこうかと本気で迷うほど特別なものに感じた。 遼は嬉しい気持ちと同時にやるせない気持ちになる。 城ヶ崎にとっては何の気なしに誰に対しても気まぐれにやってる行為であり、数日後には出来事自体忘れているのかもしれない。でも自分にとっては、これからもずっと心に残ってしまう出来事になるんだろうなと思い、城ヶ崎が遠い存在であることを痛感させられる。 遼はため息をついたあと、階段を昇る。
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