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職員室へと続く廊下を歩きながら窓を見ると、外を歩いている白川の姿が目に入り遼は立ち止まる。
白川に女子生徒がすれ違いざま話しかける。
「白川さん、その服どうしたの? 濡れてるけど」
華夜は困ったように笑む。
「さっきジュースをこぼしちゃって」
「へえ、ずいぶん派手にこぼしたんだね」
「そうね、ボーっとしてたから」
2人は少し笑い合ったあと、お互いに手を振り別れていく。
遼は校門へ向かう白川を見つめたままだ。
「・・・白川さんか」
初めて知った彼女の名前を呟いてみる。
ジュースをひっかけられても文句を言うどころか微笑を浮かべて立ち去ったこと、人のせいにせずに嘘をついて自分のミスとして語ったこと、そのような行動をとった白川を不思議な人だと遼は感じていた。
華夜を見つめている遼に浅原洋平が近づき声をかける。
「なにを見てんだよ」
遼は浅原に視線を向ける。
「別に」と遼はそっけなく答える。
浅原は遼の見ていた場所に目を向けて何かに気づきニヤリと笑う。
「さては白川華夜のこと見てたな」
「・・・」
「あの子は新入生の中でも飛びぬけて美人だからなー」
遼は白川が1学年下の女の子であることを知り驚く。
てっきり3年生の先輩かと思っていた。それほど大人びている雰囲気を纏っているように感じたのだ。
「でもあの子は綺麗だけど、ワケありっぽいぜ」
白川が校門を通過する姿を見つめたまま浅原はそう呟く。
「ワケあり?」
遼も白川の歩く後ろ姿を見つつ聞き返す。
「ああ、別にコミュ障でもなさそうなのに、男子の誘いはおろか女子の遊びの誘いすらのってこないらしい」
遼は苦笑する。
「それだけでワケありって・・・」
「誰にでも優しくて寛容な心を持ってる美人が、部活にも入らず誰とも遊びもしない。それに今までどんなイケメンからの告白も断ってるみたいだぜ」
「習い事か何かあるのかもしれないだろ。それに彼氏だって秘密でいるのかもしれない」
洋平は首を振る。
「そう見えるか? 俺にはそうは見えないけどな。特にあの子の笑顔、何かを悟ってるような、哀しみが含まれてるように感じるんだよな」
洋平の言葉が引き金となり、華夜の儚げな微笑が脳裏に蘇った。
「・・・」
さっきはジュースをひっかけられたから、そんな表情で微笑んだと思っていたが、白川は普段からそんな笑顔を浮かべるらしい。
仮に白川が何らかの問題を抱えていたとしても、何も優れている点のない俺が力になってあげることなど到底無理だと思えた。
白川が角を曲がり、姿が見えなくなる。
「じゃあな、俺は職員室に用があるから」
「ああ、こっちは部活だ」
遼と洋平は反対方向に歩き出す。
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