ワケあり少女

5/8
前へ
/8ページ
次へ
そのあと俺は田辺にたっぷりと叱られる。なんで提出物の出し忘れでここまで怒るんだよ、人として器が小せぇんだよと心の中で悪態をつきながら、いかにも反省しているような表情を見せて叱られてあげる。 説教が終わったあとイライラしながら職員室から出て、炭酸ジュースを買おうかと思ったが、ポケットの中に城ヶ崎から貰ったアメがあることを思い出し、ジュースの代わりにアメを舐めて我慢するという案が浮かぶも、記念として食べずに残そうという考えもあって迷う。 ふと、城ヶ崎から貰ったアメを後生大事に持っている自分とアメをあげた出来事どころかクラスメイトであった自分のことすら忘れて華やかな人生をおくっている城ヶ崎がイメージとして浮かび上がり、自分が情けなく思える。 遼は即座にアメの袋を破き、口の中にアメを勢いよく放り込む。 何も特別なものを持っていなく、これまでの人生で恥ずかしい失敗をして周りの人間から注目を浴びたことならあるが、良い意味で多くの人から注目を浴びたことなんて一度もない自分と城ヶ崎や白川のような生まれたときから特別な美をもっていて常に良い意味で注目を浴びている人間とでは、きっと1日の中で体験する出来事の密度が全然違うのだろうなと思い、悔しくなる。 校門を通過する頃には、アメは口の中で完全に溶けてなくなっていた。 空を見上げると、快晴でも曇りでもないふつうの雲模様。これから何か変わったことが起こる予感を微塵も感じさせない空だ。 まるでこの先の自分の人生を暗示しているかのような空だなと思いながら遼は家に向かって歩いていく。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加