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「はぁ~……」
エレベーターに乗り目的の階を押した途端、二人は揃って安堵のため息を吐いた。
「葵ちゃん、ありがと。助かった……さっきはごめんね、余計なこと言って」
純がお礼とともに車での件を謝ると、葵は少し恥ずかしそうに答えた。
「まあ、そこは一応先輩としてな。でも、お前自身も気をつけろよ。一人のを受け取ったら、後がきりないから」
自分ばっかりが、いつまでもケンカを引きずっていてはあまりにも大人げない。
そんな葵の変化に純も気づいたのか、安心したように笑顔を見せた。
「うん。でも、平日なのにあんなにファンの子がいるとは思わなかった」
「まあ、感謝しなきゃいけないんだろうけどな」
しみじみと呟いた葵の言葉に純も大きく頷く。
葵達のグループは、デビュー曲が子供向け番組の主題歌だったためか、その当時はモンスター系のコスプレ衣装で先行きが不安だったが、今では自分達の冠番組も持たせてもらえるくらいに成長した。
最近ではメンバー個々の仕事も増えてきたし、若い女性を中心に幅広い層から人気を集めている。
「デビューした時、一年持てばいいほうだなって……正直、俺そう思ってた」
目的の階でドアが開きエレベーターから降りながら自虐的に笑って葵が言うと、純は拗ねたように言った。
「そりゃあ、葵ちゃんとリーダーはいいよ。前の事務所での実績があるから、ソロでもやっていけるけど……俺なんかMonsterが解散してたら無職になってたよ」
「そんなこと言うなって。デビュー当時、子供向け番組の番宣で、お前がかなりの戦力だったんだからさ」
実際、子供達とどう接すればいいか戸惑っていた葵達の中で、純は真っ先にその場の雰囲気に馴染んでいた。
そのおかげで、子供から母親世代までのファンを得ることに成功したのだ。
「だったら、もっと俺に優しくしてよ」 「十分してるだろ。お前は手のかかる可愛い後輩だよ」
「手のかかるは余計です~」
そう言って二人で笑いながら楽屋のドアを開けると、すでに中には二人のメンバーがいた。
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