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「葵ちゃん! もう、いい加減覚悟決めて飛んじゃいなって」
無意識に現実逃避をしていたのだろうか、なぜか子供のころの祖母との思い出を振り返っていた葵はそんな他人事のような言葉で現実に意識を戻された。
「うるせー! 他人事みたいに言うな」
相手からしてみれば、まったくの他人事なのだが、その当たり前のことにすら気づく余裕もなく葵は背後に向かって怒鳴り返す。
今、葵達がいるのは遊園地の絶叫アトラクションの一つ、バンジージャンプの上の所。特に葵は飛び込み台の上に立っているのである。
なぜ、そんな状況になっているかというと、葵は人間界ではデビュー四年目を迎える五人組アイドルグループ・Monsterのメンバーで、自分達のレギュラー番組内での対決に負けてしまったからだ。
罰ゲームを敢行すべく、開園前の遊園地を貸し切り何台もの定点カメラやCCDカメラなどをセットし、葵が飛び込み台に立ってから約三十分……そろそろ覚悟を決めなければならない。
「…………」
葵は恐る恐る端へと進み、下へと顔を向ける。
(あ~、やっぱ無理! 何だよ、この高さ~)
つい、後退りして顔を背けてしまった葵の背後から責めるような声が聞こえる。
「葵ちゃーん! 早くしないと、次の現場遅れちゃうよ」
「純、お前後で覚えてろよ!」
葵は八つ当たりのせいもあり、ついつい相手に怒鳴り返してしまう。
だが、この人物こそ葵がこの罰ゲームをやることになった原因でもあるのだった。
葵が吸血鬼のくせに高所恐怖症だということを知っていたうえで、あっさりと対決に勝ってしまったのは葵と同じMonsterのメンバーで、事務所の後輩でもある早緑純。
もっとも、純としては別に葵を負かそうとしたわけではなく、対決ゲームで盛り上がってテンションがあがった挙句、いつも以上の能力を発揮して圧勝してしまったのだ。
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