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(仕事が第一優先な奴だと思ってたのに……)
実際、今までの雅弥は学校よりも仕事を優先させ、ハードスケジュールの中でも文句を言わずに頑張っていた。
一番、年下なのに誰よりも熱心に番組の打ち合わせに参加して、堂々と意見を言っていたりもした。
初めてドラマのレギュラーがもらえた時は真っ先に葵のもとへ嬉しそうに報告しに来ていたのに……そんな雅弥がここまで嫌がるなんて。
(もしかして、ラブシーンを見せたくない相手がいる……とか?)
葵は、ふと昨夜に見た雅弥似の男のことを思い出した。
もし、あれが本当に雅弥だったとしたら隣にいたのが、たぶん彼女……とまではいかなくても雅弥が特別な想いを抱いている相手なのだろう。
わざわざあんなところで密会していたのは、マスコミにばれるとまずいから。
仕事優先の雅弥なら、それくらいの配慮は当然しているはずだ。
そう考えると、雅弥が今回のラブストーリーを渋っている説明がつく。
「ミヤビ、お前、昨日の夜……」
「えっ……?」
「あっ、いや、何でもない!」
雅弥が驚いたように顔をあげて葵を見つめてきたので、葵は咄嗟に『女の子と一緒にいなかったか?』という質問を誤魔化してしまった。
なぜだか、その質問をしてしまったら、今まで自分が知っていた可愛い後輩の雅弥がいなくなってしまいそうで怖かったのだ。
(俺もいい加減、後輩離れしなきゃ駄目だよな)
そんなことを思って自分自身に小さく笑いを零してから、葵は努めて明るい声で雅弥へと話しかける。
「……確かにラブシーンを人に見られるのって、ちょっと恥ずかしいけどさ、芝居を続けていくつもりなら割り切らなきゃだろ。演技は演技で、本当のお前は……大事な人にだけ見せればいいじゃん。相手だって、それくらいわかってくれるよ」
別に雅弥本人の口から特別な相手がいると聞いたわけではないが、葵はなぜか確信をもってそう雅弥にアドバイスをした。
それに対して雅弥は小さく「……考えてみる」と、だけ返事をした。
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