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「でもね……せっかくの人間界なんだから、葵くんも悩み過ぎないで楽しまなきゃ。吸血鬼のくせに生き血が吸えないってのも克服しないとな~」
グサッ!
そんな音が聞こえてきそうなくらい、悠陽の言葉が葵へと刺さる。
「それ、言わないでよ……かなり気にしてるんだから」
悪気がないぶん、それが悠陽の本音なのだとわかって葵はさらに傷つく。
「ごめんごめん。でも、吸血行為が出来ないと、葵くんの能力にだって影響してくるんだから頑張らないと……それに葵くんは僕達の正体がばれないか心配しているみたいだけど、みんながいるんだから大丈夫! 安心してよ」
普段はのんびりとして、何を考えているかわからないことが多い悠陽だけど、こうして周りを安心させてくれる雰囲気は、さすが一国の王の血筋を引いているだけのことはあるのかもしれない。
そう思って、葵が尊敬の眼差しを向けたというのに……。
「じゃあ、そろそろ夜釣りに行く時間だから、僕先に帰るね」
今の真剣な表情はどこに行ったのかと聞きたくなるくらい、一気に空気が変わってしまった。
「やたらと着替えが早いと思ったら……そういうことですか」
「まあね」
呆れたように誠が言ったのに対して、悠陽は嬉しそうに自分の荷物を手にした。
魔界は人間界と違って天候があまりよくなく、その中にある池ではとても生物が生息出来る状態ではない。
そのせいか、人間界に来て初めて水の中を泳ぐ綺麗な魚を見た悠陽はすっかりそれの虜となってしまい、今では見るだけでは飽きたらず釣りまでもが趣味となっている。
そして、悠陽は釣り上げた魚を自ら捌くというところまで成長していて、事務所が用意をしてくれた隣同士で暮らす葵の部屋までそれらを届けてくれることも珍しくない。
「リーダー。気をつけてね」
「おう、ありがと。じゃあ、お疲れ~」
純の言葉に手をあげて応えると、悠陽はウキウキとした様子で楽屋を出て行ってしまった。
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