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(……え? 俺を何だって?)
予想もしなかった雅弥からの要求に、葵は言葉も出せず雅弥の顔を見つめてしまった。
すると、今までに見たことがないようなくらい大人の男の表情をする雅弥が目の前にいる。
「俺の血を吸わせる代わりに、葵くんを抱かせてってこと」
「だ、抱かせる?」
すぐには雅弥の言った意味が理解できずに、葵は驚いて聞き返してしまう。
それなのに、動揺している葵とは対照的に雅弥は余裕の笑みで返してくる。
「葵くんは欲求不満も解消出来るし、吸血行為も克服出来る……悪い条件ではないでしょ?」
(勝手に欲求不満って決めつけるな!)
確かに今はそんな相手もいないが、年下の後輩にはっきりそう言われると、なんだか悔しい。
そもそも欲求不満というのは別にしても、この取引で葵は『血が吸える』というメリットがあるが、雅弥にとっては何の得があるというのだろうか。
確かに芸能界では同性同士も珍しくないし、魔界の感覚で考えたら対して衝撃もないけれど、まさか自分がその立場になるなんて葵は考えたこともなかった。
そして、よりによって同じグループのメンバーである雅弥がそんなことを言い出すのも予想外だ。
いくら普通の人間じゃないとはいえ、葵だって雅弥と同じ男だし。それを抱きたいなんて雅弥の考えがわからない。
(だいたい……お前、大切な人がいるじゃん)
葵が必死に考えを巡らせていると、そんな複雑な想いが顔に出ていたのか雅弥が小さく呟いた。
「……俺もラブストーリーの勉強になるし」
(ああ、そういうことか)
今回のドラマにどこまでラブシーンが組み込まれるかは知らないが、これを機に今後の雅弥の仕事にそういったシーンが全くないとは言い切れない。
その時のために、人に見せるためのラブシーン……つまりはちゃんとした『見世物』になるように雅弥は練習したいと言っているのだ。
(それは確かに……本命には頼めないよな)
「俺に抱かれるの……嫌だ?」
葵が一人で考え込んでいると、雅弥がそう聞きながら右手で葵の耳元を掠めて髪を撫で、顔をさらに近づけてくる。
「嫌っていうか……その……」
整いすぎた雅弥の顔のアップに葵の頭は混乱してしまい、うまく言葉が返せない。
雅弥に抱かれたいかと聞かれれば答えはノーだが、断ったことで今後のグループ活動に影響はないのだろうか。
(でも、いくら俺とは練習だからって、彼女に対して失礼だよな。いや、まだ彼女じゃないのか? そもそも、マコと純とは違って、人間であるミヤビと関係を持ってしまうのもどうなんだ?)
葵が頭の中でグルグルとそんなことを考えていると、鼻先が触れ合うくらいの距離まで雅弥の顔が近づいていて、甘く囁かれた。
「嫌じゃないなら……いいよね」
そして、そのまま雅弥の唇が葵の唇へと重なってきた。
「んぅっ……」
驚いて声をあげてしまいそうになったために出来た隙間から、そっと雅弥の舌が口の中へと差し込まれた。
そして、そのまま葵の舌を絡めとってくる。
(いきなりディープかよ!)
「ぅ、ふぁ……」
息継ぎをしながら、何度も雅弥の唇が重なってくるうちに、だんだんと葵は頭がボーっとしてくる。
(やばい、なんか……気持ちいい)
最初は彼女に対して失礼だ……とか、人間の雅弥と……なんて色々と迷っていたのに、すでに葵は雅弥とのキスに夢中になっていた。
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