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(どうしよう、今が説明するタイミングか?)
葵がそう悩んでいると、誠がいつものブタの貯金箱を手にしたのが見え、それに気づいた雅弥が先に動いた。
「葵くんの血のことなら、俺も知ってるから。まあ、俺が葵くんから強引に聞き出しちゃったみたいなもんだし、代わりに俺が払うでいい?」
そう言うなり、雅弥はサッと財布から出した小銭を貯金箱へと入れてしまう。
その光景を悠陽と純が驚いたように眺めながら、葵と雅弥へと交互に視線を送ってくる。
(ミヤビにバレたって言ってなかったもんな……そりゃ、驚くよね。しかも、いくら信じてもらうためとはいえ、何でミヤビに罰金のことまで話したんだ、俺!)
後輩の男らしい態度に、庇ってもらった葵は何だか恥ずかしくて雅弥の顔が見れずにいた。
すると、誠は雅弥が知っているということにはたいして驚いた様子も見せずに言った。
「さすが雅くん! かっこいいねぇ。コレを管理している私としては、払ってもらえれば誰でもいいから」
その言葉に葵は反論しかけたが、そういえば以前に王子である悠陽からもお金を取ろうとしていたのを思い出して、注意するのをやめた。
葵が呆れていると、今度は純が何気なく言った。
「でも、葵ちゃんが吸血出来るようになったなら使わないんじゃない? そのお金」
「何、そのためのお金だったの? これ」
純の言葉に雅弥が少し呆れたように聞いた。
「うん。生き血を吸えない葵ちゃんがそれで血を買ってたの」
「へぇ~……」
そう言いながら雅弥の視線が葵へと向けられる。
その瞬間、もし、ここで雅弥が葵に自分の血を吸わせていることを言い出したら、みんなになんて説明をしたらいいのかと葵は悩んでしまった。
特に同じ吸血鬼で、吸血行為の副作用に関しても理解している誠あたりからは余計な詮索までされそうだ。
(頼む、ミヤビ。俺とのことは黙っててくれ!)
そんな思いを込めて雅弥を見つめ返すと、雅弥は何事もなかったように葵に向かって言った。
「良かったね、節約できるようになって」
「お、おう」
笑顔で雅弥にそう話しかけられ、なんだか拍子抜けしてしまった葵は一言だけ答えた。
自分と雅弥の変な契約がみんなにばれないかと葵は変に動揺してしまったが、雅弥本人はたいして気にした素振りも見せていない。
それどころか、別に葵とのことをみんなに話すつもりも最初からなさそうだ。
改めて考えると、自分と雅弥の関係はいったい何なのだろうか?
葵からしてみれば、雅弥は生き血を吸わせてくれる相手で、その雅弥がいるからこそ、葵は吸血鬼としての能力を維持出来る。
では、雅弥から見た葵の存在とは何なのか?
最初は恋愛ドラマに慣れるためと言って関係を持ち、実際、あの後に雅弥は主演ドラマの話を引き受けることにしたようだが、正直、そこまで濃厚なシーンを製作者側が雅弥にやらせるとも思えない。
それならば、葵は身近なところで性欲処理出来る相手?
でも、いくら避妊の心配がないからとはいえ、同じグループでしかも同性同士なんて、マスコミにばれた時のリスクは大きい。
だったら、まだ本命のあの女の子と噂になった方がましな気がする。
(ミヤビ……何、考えてるんだろう?)
「……ちゃん? 葵ちゃん!」
「……え……あ、何っ?」
雅弥のことを考え込んでいた葵は、いきなり純に顔を覗きこまれて我に返った。
「もう、みんなスタジオに移動始めてるよ」
そう言われて周りを見渡せば、もうすでに葵と純以外のメンバーは楽屋から消えていた。
「ぼーっとして、どうしたの? 体調、悪い?」
「あ~……何でもない、大丈夫」
葵の答えに、純はまだ少し心配そうに見つめてくる。そんな純に何て言い訳するかを考えていると、葵はふと思いついたことがあった。
今は同じ魔界の者だとわかっているが、少し前まで純は『人間』として人間界で過ごしていたはずだ。
その状態で、最初は誠のことをどう思っていたのだろうか。
魔界のことや純が人間ではないことを説明されて、それを全て納得して受け入れる。
二人が出会ってから、純が誠の吸血のパートナーになるまでに何があったのか、葵は二人から詳しく聞いたことがなかった。
「なあ、純。仕事終わりに時間あるか? ちょっと、相談したいことあるから、どこかで飯でも……無理かな?」
純なら、人間である雅弥の考えが少しは理解できるかもしれない。
そう思った葵からの誘いに、純は驚いたようだ。
「葵ちゃんが俺に相談なんて、珍しいね。いいよ、俺でよければ聞くよ。でもそれってふつーの相談?」
純からの質問の意図を葵が疑問に思っていると、二人しかいない楽屋だというのに小声で純が言った。
「魔界のことなら、人に聞かれちゃまずいでしょ。俺んち、来る?」
普段は危なっかしいくらいに天然なのに、たまにこうやって鋭い指摘をしてくる純の感性には驚かされる。
「ん、その方が助かる内容かも。お言葉に甘えてお邪魔する。あっ、他のメンバーにも絶対に内緒だからな!」
「わかってるって♪」
純からの気遣いに感謝しつつも、一応、葵が口止めをしておくと純は笑顔で答えた。
やっぱり、同じ魔界で育っただけに悠陽や誠には、逆に相談出来ないこともある。
魔界の者でありながら、人間界の方が馴染みある純の存在にホッとしながら、葵はその日の収録へと挑んだのだった。
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