103人が本棚に入れています
本棚に追加
「だいたい俺よりも可愛い奴いるだろ。お前だって」
「俺?」
葵の反論が予想外だった純は不思議そうに首を傾けた。
確かにその姿はとても二十三歳の成人男性とは思えないくらいに可愛らしい。
もっとも、いくら可愛いといっても純は身長が葵より八センチも高く、メンバー内では一番の高身長だ。
細身でスタイルもよく、雑誌の撮影などでポーズを変えるたびに明るい茶色のストレートの髪がサラサラと額で揺れる純の姿は、アイドルというよりもモデルのようだ。
でも、ひと度口を開くと途端に子供っぽくなり、はしゃぎ過ぎてレギュラー番組のセットを破壊させたことも片手では数えきれない。
そんな純の可愛さは外見がというよりも、内面からくる無邪気さがそう思わせるのだろう。
「でもさ、俺達って全体的に童顔だよね」
「こればっかりは成長期でもないし、今さらなぁ」
他のメンバーを思い浮かべながら言った純に対して、葵も同意しながら頷く。
さっきの撮影直後は機嫌が悪く口数も少なかった葵だったが、純の雰囲気につられていつも通りに戻りつつあった。
だが、その空気に安心して気が緩んだのか、純はまたもや余計な一言を零してしまう。
「それにしても、葵ちゃんが吸血鬼なんて嘘みたいだよね。高所恐怖症だし、人から血も吸えな……いてっ!」
葵にいきなり頭を叩かれ、純は痛そうな声を出した。
口よりも先に手が出てきた葵の態度に、純は自分が踏んではいけない地雷を踏んでしまったことに今さら気づく。
「あ、葵ちゃん……怒ってる?」
「…………」
恐る恐る聞いてみた純の問いに、葵からの返事はない。
せっかく会話が出来るようになったのに、またもや振り出しへと戻ってしまった。
「ごめんってば~、葵ちゃん!」
純が大声で葵に謝った瞬間、運転席のドアが開いてスタッフが顔を出した。
「お待たせしました……あれ、どうかしましたか?」
「何でもないです。気にせず出発してください」
車内の微妙な空気を感じたスタッフの問いに、葵は笑顔でそう答えた。
「葵ちゃ~ん」
再度、泣きそうな声で話しかけてくる純の言葉を無視して、葵は走り出した車の窓の外へと顔を向けてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!