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多少、大人げない態度だと葵自身もわかっているが、どうしても触れられたくないコンプレックスが葵にはある。
(俺は吸血鬼として、まだまだ可能性を秘めてるんだ! 吸血行為さえ出来るようになれば、もっと能力だって高くなるんだから!)
そう心の中で反論する葵の最大の悩みは『吸血鬼なのに吸血行為が苦手』ということだ。
本来、吸血鬼には本能的に吸血欲求があり、その誘惑がまだ弱い幼いうちに周りの大人から吸血の仕方を学び、自然と人間相手でも大丈夫な力加減を身に付けていくものだが、葵はエリート家系に生まれてしまったばかりにその機会を逃してしまったのだ。
葵も一度だけ吸血の練習をしたことがあるが、その時の感覚に慣れることが出来ず、なかなかそれ以降の練習が出来ずにいた。
そんな時に、王家からの命で人間界に来ることになってしまった葵は、いまだに一度も人間相手に吸血行為を行えていない。
(だって……加減間違えて相手を傷つけたら恐いし)
いくら吸血鬼とはいえ、人間に対して危害を加えてしまうことは本意ではない。
そんな想いから、葵は人を襲うことの出来ない見事な「草食系吸血鬼」と化していた。
(こんな状態で、俺ちゃんと務め果たせてるって言うのかな)
少し落ち込みかけていた葵の意識は、運転をしていたスタッフの声によって現実へと引き戻された。
「あの、車着けるの正面入り口じゃなくて、地下の駐車場でいいですか?」
その問いに外の景色を見ると、次の現場であるテレビ局が見えてきていた。
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