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エリート吸血鬼の大失敗
「はあぁ~……」
雅弥と別れて局内へと戻ってきた葵は楽屋へと向かう途中で大きく溜め息を吐いた。
結局、あの後はずっと気まずい空気がなくならず、雅弥に『一人で考えたいから先に楽屋に戻ってて』と言われてしまい、あの場を後にするしかなかったのだ。
(なんとかしないと、これからの仕事がまずいよなぁ)
そんなことを思いながら、葵は楽屋のドアノブへと手をかけた。
「お疲れさ……」
「ちょっとマコ! ダメだって……んっ」
何も気にせずドアを開けた葵は中から聞こえてきた声に驚いて顔をあげた途端、慌てて室内へと滑り込み扉を閉めた。
そして、次の瞬間には叫んでいた。
「お前ら、何してんだ~!」
なぜなら、そこには上半身裸の純を誠が後ろから抱き締めていてその首筋へと顔を埋めていたからだ。
純のほのかに紅潮している頬や誠の手の動きが、明らかにじゃれ合いの範囲を超えている。
「あ、葵ちゃん。お帰り」
それなのに、そのまま葵へと顔を向けた誠は全く動揺していないどころか、平然とそう言った。
「うん、ただいま……じゃなくて、質問に答えろ!」
「あはは、葵ちゃん、ノリツッコミだ♪」
「うるさい、純バカ!」
さらには、裸で誠の腕に抱かれたままの純にまで無邪気にそう言われて、葵の怒りは限界をむかえる。
そんな葵の様子を宥めるかのように、すでに着替えを終えていた悠陽がのんびりとした声で言った。
「まあまあ、葵くん。落ち着きなって」
「だって悠陽くん。ここ、楽屋だよ? なのにあの二人ときたら……あんなことを……」
葵が必死に訴えると、悠陽は葵の頭を撫でながら説明してくれる。
「仕方ないよ。マコが食事したばかりだから」
「え……?」
その言葉に、もう一度二人の方へと葵が視線を向けると、すでに二人は離れていて誠が言った。
「久しぶりの外でのロケだったからね。我慢出来なくて、純さんに血を貰ったの」
そう言って開いた誠の口からは、確かに普段はないはずの八重歯のような牙が見え、よく見ると瞳の色も金に近い黄色に変わっていた。
「なんだ、そっか……じゃなくて! 楽屋でいちゃつくのも問題だけど、楽屋で力を使うのも大問題だから!」
事実がわかって少しホッとしたのもつかの間で、葵は再度、みんなに向かって言う。
(何度も何度も『注意しろ』って、前にも言ったのに、何でみんなはわかってくれないんだ)
葵は縋るように悠陽の両肩を掴む。
「悠陽くんも見てたなら、ちゃんと止めてよ! 何度も言うけどね、悠陽くんは俺達、魔界の者にとっては大事な後継者なんだから。悠陽くんがちゃんとしてくれないと、お供についてきた俺が魔王様に合わせる顔がないよ」
最後は半泣きになりつつも、葵が悠陽に訴えると、悠陽は優しい笑みを浮かべて言った。
「大丈夫、葵くんはちゃんと役目を果たしてくれてるよ。僕が保証する」
「悠陽くん……」
少し感動しながら見つめ返した葵に、悠陽から返ってきた言葉は予想外のものだった。
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