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葵の戸惑い
「なんか、最近の葵くん……前とちょっと違う」
「ど、どこが?」
いきなり楽屋で真剣な表情の悠陽にそう言われて、葵はあからさまに動揺して上擦った声で聞き返してしまった。
「ん~……魔力の感じが少し変わったかな」
まだ雅弥がきていないからか、悠陽が言葉を誤魔化すことなく指摘してきた。
(さすが、魔界の王子……そんな微妙な変化に気づくんだ)
正直、雅弥から生き血を貰うようになってから、確かに葵には色々と変化が現れ始めた。
魔力が強まってきたおかげか、前よりも日差しを浴びても体力が持つようになってきたし、倦怠感もあまり感じなくなってきた。
「それに顔色も前よりいいよね」
そう言って今度は誠にグイッと下から覗き込まれて、葵は僅かに仰け反る。
血色がいいのは生き血のおかげで貧血状態が少なくなったせいだろうが、何だか誠には余計なことまで見透かされそうで怖い。
実は、雅弥相手に吸血行為を行っていることを、葵はみんなに話していなかった。
別にそれ自体は隠すことでもないが、それに付属する色々な出来事をどう説明すればいいか悩んでいるうちに、話すタイミングを逃してしまったのだ。
(だって、人間であるミヤビを巻き込んでしまったのは俺のミスだし)
それに自分と雅弥の関係は誠と純みたいな恋人同士とはちょっと違って、葵は生き血を吸う練習、雅弥はラブシーンのためにお互いに肌を重ねているなんて……恥ずかし過ぎてみんなに言えるわけがない。
(でも、ミヤビが俺の正体を知ってて、みんなもそれを知っているって説明してあることくらいは話しておいた方がいいのかな?)
そんなことを思って葵が油断していると、後ろからいきなり誰かに抱きつかれた。
「顔色もだけど、葵ちゃん……なんか色っぽくなってない?」
「うわぁっ!」
純に覆い被さるように後ろから顔を覗き込まれたのと、言われた内容に対して葵は必要以上に驚いてしまった。
『色気』に関しては、最近雅弥からも抱かれる度によく言われていたが、それはただのムード作りのリップサービスだろうと思っていたのに、淫魔である純の言葉となると、また意味が違ってくる。
純の何気ない一言で、悠陽と誠の視線が葵へと集中する。
「色気……ねぇ」
葵と同じ種族で淫魔の純を恋人に持つ誠の探るような視線に、葵は耐えきれずに大声を出した。
「いや、実は俺、吸血行為が出来るようになったんだよ!」
雅弥とのおかしな関係を誤魔化すために、葵は正直に事実を白状する。
すると、今度はみんなが驚いたような視線を葵へと向けてきた。
「本当に?……ついにだなぁ、葵くん」
「おめでとう、葵ちゃん!」
「あ、ありがとう」
素直に祝福してくれる純に、少し戸惑いながら返事をする。
「あれだけ力加減を怖がってたのに、よく挑戦したもんだね。相手は人間?」
「うん……まあね」
誠からの質問に、雅弥の名前を出すべきか迷ったけれど、結局、葵は曖昧に誤魔化してしまった。
なんだか下手すると自分から余計なことを言ってしまいそうで怖かったのだ。
(いや、一応『人間』って括りでは嘘じゃないもんな)
葵はそう自分自身へと心の中で言い訳をする。
「だから、色気なんて気のせいだよ。変わったように見えるのは生き血が飲める……あ」
「おはよー」
葵の言葉は、楽屋のドアを開けて入ってきた雅弥と目があったことで止まってしまった。
「…………」
楽屋内に微妙な空気が流れる。
明らかに今のは雅弥に聞かれたと、みんなが気づいていた。
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