第18章 萌す希望と放浪

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第18章 萌す希望と放浪

──2070年4月4日(金) ミスズの誕生日。彼女は何故か自分宛てにケーキを作っていた。 チャーリーがカフェへ訪れた。プレゼントは指輪。絶対付き合うんだろうな。 ──2070年4月6日(日) 毎週日曜日のトレーニング。その後にまた放浪の旅をするようだ。 チャーリーはバスをチャーターしていた。急いでミスズに休職のメールを書き、送った。 そのバスは窓が黒く塗られて、現在地が分からない。恐ろしい。 「なぁ、俺達どこ行くんだ?」 すると閃光が走った。光が一面を覆う。 バスを降りる。タイムスリップでもしたようだ。 そこは真冬の度を超した寒さで、吹雪が吹き付ける雪道だった。 辺りは何にもない。雪が広がるだけ。 「あの、何でここに……」 振り返った時、チャーリーとバスはもういなかった。 つまり僕ら八人は取り残された。 「えっ?どうすんだよ!」 すると端末が勝手に開いた。 「今こそ仲間を信じ合う時、制限時間は無限。ニライカナイに戻ってこい!これがミッションだ」 チャーリーの声はやけに響いた。真冬の荒野に放された僕らを嘲るように。 「どうすんだよ……」 ツヨシは弱気を吐く。こんな時に気炎を吐く奴なんていない。 「は?ここは雪国だぞ。到底無理だ」 「死ぬぞ、こんなところに居たら」 僕にはもう風の悪魔:くしゃみが取り付いていた。連発で息が出来なくて死にそうだ。 「寒いんだよ、ふざけんな!」 サラも暴言を吐いた。 「似非車掌チャーリーが!許さねぇぞ」 「ってかこれ殺人案件じゃん」 「笑えねぇよ」 持ち物は端末のみ。それも圏外で接続できない。 「俺ら騙されてたんだな。笑うしかねぇや」 みんなで腹を抱えて笑った。僕も絶望していたがしょうがない。 「そうだ、雪遊びしようぜ!」 「生涯最後の雪遊び!全力出すぞぉ」 雪を丸めて投げ合う。もう気持ちは壊れた。 「どうにでもなれ!」 僕も雪を投げようとすると、手に固い感触が走った。掘り起こすと大きなドラム缶が現れた。 「何だこれ?」 缶の中身は数日分の食事、水と防寒具、寝袋だ。 「やったぜ!生命維持装置ゲット!」 奇しくも人数分あった。多分仕掛けてあったのだろう。 「すげぇなエイジ!」 「まだ安心しない方がいい。早くここを抜けないと」 暫く雪道を歩く。缶に入っていた長靴を埋めるような深さだった。 「……大丈夫かな?」 「大丈夫。ぜってぇ帰ってやるぞ」 「チャーリーに俺らの力見せ付けよう!」 吹雪は強くなる。装備も無効果で足の感覚が麻痺してくる。 次第に言葉数が減る。 遂に夜の風が吹く。 「ここで泊まろうぜ」 「寝袋もあるしな」 「お腹空いたー!」 メイは叫ぶ。僕らは五時間くらい歩いていた。しかし終わりは見えない。 「ん、じゃあ調理しますか!」 ケンリュウが腕を捲る。しかし祁寒によりすぐに下ろした。 「非常食みたいのだけだぞ。それも一食分」 「ついてねーな。まぁ食うしかない」 雪水を溶かしてポットへ注ぐ。ガスで沸かす。 「出来たぞ」 ラーメンのようだ。悴んだ手が綻ぶ。同時にみんなの顔に笑みが浮かぶ。 「乗り切るしかねーよ。俺は諦めない」 「私も。こんなとこで死ぬなんて割に合わない!」 「そうだよ。俺らは現実でも苦労してきた」 シュプレヒコールのように活気が広がる。 「あれ?サラちゃんは?」 「居ないぞ」 辺りを見回す、彼女は居ない。 「ヤバくね、死んだら連帯責任だろ?」 「あんなやつ知らねーよ。解け合って来なかったんだから居ないの同然だろ」 その言葉が逆鱗に触れたメイは剣幕を見せる。それがケンリュウに向かう。 「なんてこと言うの!」 「当たり前だろ。単独行動ばっかしやがって。最初から俺達のこと信用してないんだよ」 正論の刃が突き刺さる。そう言えばそうだ。 「まぁ喧嘩はやめようぜ。楽しくないし」 「これは解決しないといけませんよ。後回しにしていて良いことはありません!」 揉み合いは続く。雪の降り頻る中で。 「あいつを探しにいくなんて無茶だよ」 「そうだよ。でもあの言い方はないでしょ?」 マナとユリは「撤回しろ!」とコールする。 僕の堪忍袋の緒に切り込みが入る。 「うるせーよ。そもそも何がしたいの?喚いたって仕方ない!」 これは言い過ぎかな?と過るがもう遅い。 「橘がサラに酷いこと言った、私達は彼女のお蔭で写真対決で勝てたの!」 「俺は正論を言ったつもりだ。過剰で短気なお前の脳が可笑しいぞ!」 「おい、やめろよ!お前ってそんな奴だったか?」 激情するケンリュウにツヨシがありったけの声で叫ぶ。 「あいつだって行動力あるだろ?多分生き延びられるさ」 「そうかな?」 「それは化学的に証明されて……」 「あいつならできる。周りと絡みたくなければそれでいいじゃないか。異世界でデビューしたんだろ? 中々の強者だぜ」 「……それは話が……」 「今は静かに見守ろう。絶対にあいつは大丈夫だ」 ツヨシの温かい言葉で場が和んだ。 「所詮人間ってのは多種多様だ。周りに馴染もうとしても向いてない奴もいる。仕方ない」 これは現実世界の僕にも言えることだ。友達が欲しくて無駄にクラスRailに出没した日々。今でも恥ずかしい。 その結果、友達なんて無理だった。そもそも話し掛けられないという難点があった。 そう。僕には他人と絡むことが向いていないのだ。 「さ、残りのラーメン誰食う?」 「私!論争してたからまたお腹空いちゃった!」 「うちだよ!マナより論争やってたし」 メイとマナが奪い合う。 ──一方サラ 三時間くらい連中の後に付いて行っていたが、密かに光る街が見えた為、離れた。 あいつらは気付いていない。あんな間抜けな顔をしてのうのうと歩いているのだ。 今頃街にいる。圏内に入り、端末も自由に使える。 雪が疎らに残る街は温かい。カフェに入りコーンポタージュを啜る。 あいつらは心配しているだろうか?そんなの気にしない。 私には音楽がある。これなら生きていくこともできる。 ホテルも取った。ベッドに寝転がりながらRailを見る。 バスに乗った以降会話がない。まだあいつらは圏外にいるのだ。 ダメだ、また見下してる。 こうだから私には友達が出来ない。 そのせいで体育のペアも一人、文化祭も一人、異世界でも一人。 やっぱ私生きるの向いてないのかな?と思ったりする。本当に友達は欲しい。 「神様、私に友達を下さい!」なんてフレーズが浮かんだ。しかしすぐ潰える。 アイデアなんて風船だ。デリケートだからすぐに破れてしまう。 思ったことはすぐにノートに書かないと。 また孤独の夜を過ごす。異国の窓から見える月。 ここはニライカナイの対義語であるように遠く離れた地だ。戻るには一週間くらい掛かるらしい。 チャーリー本当に面倒なことしてくれたな!このせいでライブが出来ない。 異世界でもいつかは現実に戻らないといけない。鬱がまた止めどなく溢れてくる。 現実では本当に辛い。戻りたくない戻りたくない…… 違う、私はもう戻れないんだ。 私には戻る資格が無いんだ……
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