第1章 廃れた日々に風穴を

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第1章 廃れた日々に風穴を

── 2019年12月20日(金) 僕は篠田エイジ、高校一年生だ。 しかしこの高校に慣れていない。本来ならば四月に入学し、夏までに友達ができ、冬には友達と千葉の夢の国や、リア充はデートに行ったりしていたはずだ。 僕は絶望している。なんとなくで入った囲碁部は部員四人で廃部寸前だ。 勉強はついていけているが苦手な物は苦手だ。僕は完全な文系だ。 誰かに話しかけてもらいたいとは思っているが中々話しかけてもらえない。 自分から話しかける勇気もない。最低最悪の状態だ。まさに内気の頂点とも言える。 こうなったのは高校に限った話しではない。中学からである。 中学の三年間を一人寂しく過ごした、だから高校では楽しく過ごしたい、と思っていたが結果はこれだ。 冬の凍てつく寒さをポケットの中で紛らわす。 今日は雪が降ったので電車は遅延した。その結果七時間くらい待っている。(冬季休暇の前の午前授業であった) 周りの学生は喧しい、スマホで音楽を聴きたいがイヤホンは家にある。 もう時刻は十九時だ。いくら遅延といっても限度がある。周りの人々も段々と怒りを露にしてきた。 漸く電車が流れて来た。しかしホームは疾うにごった返しているのですぐ乗れる訳がない。 その後も待って結局二十一時だ。もう何なんだ。 僕は自宅の最寄り駅まで乗る。やっと家に帰れる。 幸いに周りは空いていた。僕があまり満員電車を好まないので最後の最後まで待っていたからだ。 外は真っ暗だ。雪など見えない。 取り敢えず疲れたから眠りたい。というか自分の空間に入りたい。 僕の家は三個目の停車駅の近くである。しかし人が少なかったので不気味で長く感じた。 普段は十五分くらいで着くはずが四十分近く止まっていることに気が付いた。 これは時計を見ているから確実だ。電車の上のモニターは二個目の電車の表示のままだ。 「何だよもう……早く帰りたいんだけど」 暫くして扉が開いた。しかし駅のアナウンスがない。 僕は気のせいだと信じるがいつまで経っても閉じない。 仕方なく降りる。 「……韭威金衣(にらいかない)駅?」 こんな駅あったっけ… 廃れた駅の看板を見る。不気味で怖かった。駅のホームには明かりの「あ」の字もなかった。 急いで電車に乗り込もう。 しかし電車は扉を閉じて発車してしまう、間に合わなかった…… 「え、ちょ待てよ!」 電車は僕を見くびるような速さでホームを抜けていった。その風がやけに冷たく感じる。 「待て、どうすりゃいいんだ」 真冬の真っ暗な見知らぬ駅で一人。これだけでも得たいの知れぬ恐怖感が沸く。しかし僕には様々な状況が絡み合って余計に怖く感じた。 取り敢えずホームに沿って歩くことにした。誰かがいるかもしれない。 いなかったら降りて線路を伝って歩こう。駅には着くはずだ。 落ち着け、と言い聞かせる。時刻は二十時を過ぎていた。真冬ならもう空に星が煌めいている。オリオン座と思われるものも。 ライト代わりにスマホを開く。しかし弱い光だった。 進むに連れて、埃被ったベンチ、蜘蛛の巣まみれの掲示板など不気味を醸し出すものばかりが目に飛び込むが気にしない。気にすると心が持たない。 やたらとホームが長い。改札らしきものも自販機も見当たらない。自販機があれば住所が書いてあり一発なのだが。 暫く進むと、遠くに人影が見えた。 僕はその元へ駆け出す。誰かかもしれない。妖怪や化物だったら……なんてことは考えなかった。 近づくに伴って、その影は丁度同い年くらいの女子高生に見えた。身長は僕より少し低いくらいか? 彼女は泣きながらスマホを耳に付けていた。電話をしているのか? しかしすぐに耳元から離す。電波がないようだ。 慌てて駆け寄る。 「すみません、この駅って」 彼女は振り向いた。丸みを帯びた頬を伝っていた涙の滴が沿って落ちた。 「あなたも?」 「あぁそうだよ。取り敢えず人が見つかって良かったー」 恐怖が吹き飛んだ。 彼女は感情の堰が切れたのか、大きな声を上げて泣いた。そして僕の方に手を伸ばした。 「ずっと、こ、怖かったんだもん、良かったー」 「大丈夫だよ。三人いれば文殊の知恵とでも言うでしょ?」 彼女は僕に抱きついた。手を伸ばしていたのはそういうことだったのか。 複雑な気持ちになる。彼女の身体はとても冷えていた。そして柔らかい胸がこちらに当たる。意外と大きい。 興奮気味になったが慌てて気を取り直す。 彼女はとにかく泣いた。その度に僕は励ました。それが何度か続いてやっと泣き止んだ。 「あ、すみません。いきなり抱きついちゃって」 「身体冷えてるよ、大丈夫?」 「あぁ」 彼女は驚いた。僕が見破ったかのように。 「僕は高校一年生の篠田エイジ、君は?」 敬語なんて疾うに吹き飛んでしまった。 「私も一年生、小野寺マナ。ありがとう」 自販機は無いかと辺りを見回した。温かい飲み物で彼女の身体を温めよう。 しかしそれは杞憂だった。暫くしてから電車の音がした。 それは電車ではなかった。十九世紀の蒸気機関車に豪華な飾りが加わったものだった。星空とマッチして銀河鉄道のようだ。 「え、何あれ?」 僕も相当驚く。だって映画の中でしか見たことがなかった。それがいきなり。 その列車から人が出てきた。スーツを身に纏った背の高い車掌さんだ。ヨーロッパ系の顔立ちが格好いい青年のようだ。 運良く乗せて貰えるか…… 「ようこそ未来特急へ。この列車は時空を跨いで二〇六九年の異世界都市・韭威金衣へ移行致します」 「え?」 異世界なんて、そんな馬鹿な。 「詳しく説明致します。この駅に偶然辿り着いた方々には異世界旅行の義務があります」 「えっ?異世界なんて……」 「あっ?棄権するんですかぁ?それならこの駅に逗留することになりますよ。ここは既に異世界です。誰も助けには来ませんよ」 「いや、それは嫌です」 いきなり口調が変わって驚いた。 「それなら参加しましょう。私が全て保証致します。そして帰る時には時空を戻し、生活に支障の無いようにしますよ?」 僕は彼女と顔を合わせた。 「参加するしかないよね?」 「うん」 「参加、します!」 「ありがとうございます。では承諾書のサインをお願いします!申し忘れてしまいました、私は第二十七号車両の代表・チャーリーと申します」 「あ、僕は」 「いや、もう解ってます。篠田エイジさんと小野寺マナさんですよね?」 「えっ、はい」 何で解るのか……不気味だ。 しかしこれしか手は無い。 僕らは彼の元へ寄る。 「中へお入り下さい」 車両の中はとても豪華だ。丸で何百万円の寝台列車のようだ。 天井にはシャンデリア、暑く感じる暖房、煌めくテーブルは僕らを歓迎していた。 「こちらのテーブルにお願いします」 テーブル席だ。奥の窓には夜空が映る。 またテーブルの上に承諾書とペン、その横に旅行の過程のパンフレットが置いてある。 「温かい飲み物をお持ち致しましょう」 彼は向こうの車両に去っていった。 「暖かいね。それにしても良かったね」 「うん」 しかし一つだけ心残りがあった。 「これって無料なのかな?」 「あっ」 彼女は大きなミスに気付いたように驚く。 そこで彼がトレーに二つのカップを乗せてやって来る。湯気が結構立っている。 「あの、すみません」 「どうしましたか?」 「この旅行って全て無料ですよね?」 彼は少し悩んだ。 「私は他の悪徳異世界渡航業者ではありません。全て無料です。しかし例外があります」 僕は唾を飲んだ。彼は続けた。 「あちらの世界では超便利端末に歩数計の財布アプリが入っております。それら以外は一律無料でございます」 「そうなんですか?」 「私は嘘を吐きません。断じて宣言します!」 安心だ。そうして僕らは承諾書に名前を書き入れた。 「何かあっても二人の責任だよ」 「うん、あのままだったら凍死や餓死していたかもしれないし」 こうして僕らは異世界に行くと晴れて決まった。 「ありがとうございます。寒かったでしょうからホットミルクココアを召し上がり下さい。準備が整い次第、お呼びします」 「はい!」 僕らは笑顔だ。たった数十分前に出会ったばかりなのに。 僕はホットココアを啜る。 「何とかなったね」 「いや〜死ぬかと思ったよ。だって見知らぬ駅だよ」 「そうだ、どこの高校?」 「港英(こうえい)高校」 「えっ、あそこって偏差値高くない?」 「いや、内申があればそれほどでもないよ」 僕は偏差値六〇当たりの私立高校だ。七〇くらいの公立高校に落ちた者だ。なぜなら内申点が足りなかったから。 そう言えばあの頃は先生にも「あの子は友達いないから」と気を遣わせていたな。そういう点で内申点は頑張っても上がらなかった。 「いや、私は代陵(だいりょう)高校だから〜」 彼女の高校は僕の高校から近い、偏差値五〇くらいのところだ。 「あ〜あそこか。部活強いよね?」 「そうだよ。私陸上部でさ〜」 僕はコミュ障だと悟られないように頑張り、言葉を紡ぐ。 そうしているうちにココアがなくなった。 その時、チャーリーがやって来た。 「大分寛げましたか?では、あちらの車両にお移り下さい」 「はーい!」 僕の胸は高鳴っていた。多分彼女もそうだろう。
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