第19章 音西サラと長い夜

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第19章 音西サラと長い夜

いつも気分が下がる夜は大体長い。今までのことを思い出す。 私は三歳の頃から親にギターを嫌々習わされた。けれど段々と習熟してくるのが快感で嬉しかった。 小学校低学年の頃から、「私はギターが出来るから周りとは違う」と思い始めた。 すると周りがすっからかんになっていった。誰も寄り付かなくなったのだ。 気付くと中学生。ピアノも始め、動画投稿で曲の反応を得ている。 作曲した曲はかなり好評だ。しかしそれに気付いた同級生は悪評を流した。 それによって曲の反応にどす黒い雨雲がやって来た。台無しだ。 合唱コンクールの伴奏も以前は仕方なくやっていたが、もうやらなくなった。 自分が壊れていったのだ。 全く勉強はしてこなかったが、三年生に上がると進路も考えた。 しかし音楽活動を優先したいので安易に入れる高校にした。正直高校に行かずに音楽に励みたかった。 しかし周りの白い目は辛かった。 それが段々と失望に変わり、生きるのが辛くなった。 バンドから音楽を取ったように廃れていった。 高一の夏休みの最後の日、私は飛び降りた。 親は平然と登校しろと言う、音楽活動に絡み付く柵、周りの白い目が全て合わさった結果だ。 ──2019年9月1日(日) 夏は過ぎ去った。しかしまだセミが最後の求愛を望んで鳴き続ける。 目映い太陽、煩いセミの声、はしゃぐ子供は全て敵だ。 最近は気力がなく数日間寝込んでいた。夏休みの宿題なんて以ての外。 もう私に音楽がない。もう味方は居ないんだ。 都会の真ん中に聳え立つビルの最上階までエレベーターで上る。博物館との合併のせいで、はしゃぐ子供が多い。 うるせぇな、舌打ちを鳴らす。 漸く最上階。ここからは景色が一望できる展望台がある。 死ぬ前に見ておこう。私は階段を上る。 やはりどこもビルだらけだ。自然の欠片すらも見えなかった。 残念だ。最後だというのに。 ──午後0時35分 夏の終わりの昼、私は最後の夏を噛みしめ、浅い柵の手すりに立つ。 白昼夢の都会に飛び込むのだ。 周りの人は景色に夢中でこっちに目も向けなかった。 長年の運動不足で足がよろめく。来世で体幹は整えよう。 すると警官が人混みを掻き分けて来る。 「待ちなさい!早まるな!」 厄介だ。私は都会の空を飛んだ。 鳥のように。花火のように。 もう引き返せない。 段々と地上が細かく見えてくる。もう楽になれる。 地面に叩き付けられる。しかしまだ意識がある。 身が軽くなった気がする。下を見るとそこには私の身体が大量の血を流して倒れている。 「どういうこと?」 暫くすると救急車が駆けつけ身体を搬送して行った。私に目も向けずに。 もしかして、私の霊? 人の目に見えないならそうかもしれない。 人混みを掻き分けることなく進める。便利なものだ。 しかし、早く来世に行きたい。 これには理由があるはず。未練があったのか? それから半年間この街に居座った。霊だからお腹も空かない。ただ一日中そぞろ歩きするだけだ。 霊って意外に楽かもしれない。来世に行ってもまた私に産まれてきそうだ。 楽しい霊生活。しかしあの日、ある男が話し掛けた。 「えっ?私?」 「そうだよ。君ちょっと来てくれないか?」 そう。その男がチャーリー。霊が見えるらしい。高身長でカッコいい人だ。 そして私は一定期間身体を貸してもらっている。生前の元の姿だ。 未練を晴らす為に、異世界に来た。 早く戻ってライブしなきゃ!!
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